
1.米国でのマネジメント・カーブアウト・プラン
(1)「マネジメント・カーブアウト・プラン」とは
米国のスタートアップ実務において用いられるマネジメント・カーブアウト・プラン(Management Carve-Out Plan。Change in Control Bonusとも呼ばれます)は、スタートアップがM&Aによるイグジットを円滑に実施するため、M&Aの実行に重要な役割を果たす役職員にインセンティブを付与するため、実質的にM&A対価として受け取る金銭又は株式の一部を、既存株主ではなく役職員に割り当てる仕組みです。
マネジメント・カーブアウト・プランは、法的には会社(スタートアップ)自身が支払義務を負う負債であり、役職員への報酬の一種です。とはいえ、M&Aの実行を条件として支払われるものですので、実質的にその原資は買い手企業から支払われるM&A対価の一部です。スタートアップ自身の保有現金から支払うにせよ、その分スタートアップの企業価値が減少し、株主が受け取るM&A対価はその分減額された金額になるはずですので、その場合で実質的な原資はM&A対価といえます。また、支払は現金の場合もあれば買い手企業の株式の場合もあり、M&A対価が金銭の場合は金銭で、買い手企業の株式の場合は株式で役職員に交付されるのが一般的ですが、これも「M&A対価の一部を役職員に割り当てる」という性格を反映したものです。「カーブアウト」という名称が付されているのは、このように、スタートアップの株主が受け取るM&A対価の一部を「切り出して」役職員に分配することに由来します。
(2)「マネジメント・カーブアウト・プラン」が導入される背景
米国のスタートアップ実務において、マネジメント・カーブアウト・プランはポピュラーな仕組みになっています。その背景は以下のとおりです。
スタートアップは、役職員に魅力的な現金給与を支払うだけの現金を持たないことが通常ですので、役職員へのインセンティブは、株式又はストック・オプションなどが中心となります。このようなエクイティ・インセンティブは、通常普通株式(又は普通株式に対するストック・オプション)ですが、ベンチャー・キャピタル等の投資家から資金調達をしているスタートアップは、投資家に対して清算時の優先分配権を付与した優先株式で主に資金調達しており、M&A対価の分配も、「みなし清算条項」を通じて一定額まで優先的に優先株主に分配され、普通株主への分配は優先分配額を超過するM&A対価がないと行われません。このため、M&A時に企業価値がそれほど上がっていない(あるいは直近より下がっている)場合は、役職員を含む普通株主(やそれに対するストック・オプション等の保有者)はほとんどM&A対価の分配を受けられないことが少なくありません。
しかし、スタートアップの企業価値は、優秀な人材に依存する部分が大きく、M&Aに先立って人材が流出してしまうと、M&Aの成功も困難になります。しかし、役職員が持っているエクイティ・インセンティブに対するM&A対価の割当がほとんど見込めない場合、スタートアップの役職員に会社に残るインセンティブが生まれず、人材が流出してしまうおそれがあります。そうなるとM&Aの実行自体が難しくなり、株主全体の不利益になってしまいます。このため、(本来であれば他の株主に割り当てられるはずであった)M&Aの対価の一部を役職員に割り当てることで、M&A成功に向けた役職員の努力を引き出し、企業価値を保全する(また、M&Aの成功確率を高める)のが、マネジメント・カーブアウト・プランです。なお、米国のM&Aではアーンアウトが採用されることが少なくないですが、その場合は、スタートアップの役職員にアーンアウトのマイルストーン達成のインセンティブを付与しておくことも重要となり、その場合はアーンアウトのマイルストーン達成時にも役職員に追加支払いがなされることが多いです。
(3)「マネジメント・カーブアウト・プラン」と利益相反
しかしながら、上述した通り、マネジメント・カーブアウト・プランの実質的な支払原資は、株主が受け取るM&A対価であり、実質的には、対価の一部を株主から役職員に付け替えるものといえますので、利益相反の問題があります。抽象論としては、マネジメント・カーブアウト・プランを導入することで高い価格でのM&Aが可能になり、その結果既存株主の保有する株式の売却価格がマネジメント・カーブアウト・プランがないと仮定した場合よりも高くなるのであれば、他の株主も利益を享受できます。しかし、この点を客観的に立証することは困難ですので、マネジメント・カーブアウト・プランには、利益相反の問題が常に存在しうるといえます。とりわけ、多くのスタートアップが行っている、優先株式を使った資金調達を前提にすると、マネジメント・カーブアウト・プランの原資の負担が、特定の株主に偏る可能性があるという問題があり、この点が利益相反をより複雑化させます。例えば、非参加型優先株式を発行しているスタートアップが、非参加型優先株式への優先分配額を少し超える水準のM&A対価でのM&Aを実行する場合、マネジメント・カーブアウト・プランの支払原資は専ら普通株主により負担されることになります。
これに加えて、普通株主がハイリスク・ハイリターンの残余権者であり、優先株主が比較的債権者に近い性質を有していることを加味すると、マネジメント・カーブアウトを活用したM&Aによりスタートアップが現金で買収されることについては、より利益相反が大きくなりうる部分があります。すなわち、普通株主の価値がゼロ又はそれに近い場面を想定すると、M&Aを実行せず会社を存続させた場合、普通株主のダウンサイドは限定的(元々ほとんど価値のない普通株式がゼロになるに過ぎない)なのに対して、M&Aを実行せず単体で存続しその後会社の業績が上向いた場合は、大きなアップサイドが期待できることになります。対照的に、優先株主はM&Aを実行せず会社の業績がさらに傾いた場合、自分の優先分配分が減少するという不利益を受けますので、M&Aの機会を活用して確実にイグジットしたいというインセンティブを有しています。さらに、優先株主の多くはVCであり、VCがファンドの満期までに出資株式を現金化する必要があることから、確実なイグジットを志向する傾向があります。このように、もともと傾いたスタートアップのM&Aにおいては普通株主と優先株主との間の利益の乖離が発生しやすいところ、上述したような、マネジメント・カーブアウト・プランが、実質的に普通株主の負担で導入される場合は、この利害衝突をより深刻化させうる側面があります。
このように、マネジメント・カーブアウト・プランの原資の株主間での負担は均一ではないため、米国では、取締役が株主に対して負う信任義務に違反しないよう公正に設計することが重要とされています。例えば、プラン導入に当たり株主の承認を得ること、普通株主にとって公正に取り扱われるよう独立委員会で審議することなどが挙げられます。米国ではこの点が争点になった裁判例があり、後ほど解説します。場合によっては、利害関係のない株主の過半数による承認を取ることも提案されています。また、プラン導入に対して普通株主の賛成を得られるよう、優先株主の同意を得て、優先株主が得る優先分配額の一部を普通株主に回すことを合意することもあるようです。
(4)「マネジメント・カーブアウト・プラン」の規模、付与のプロセス
マネジメント・カーブアウト・プランの規模を決定するにあたっては、役職員に十分なインセンティブを付与する観点(この観点では大きい方が望ましい)と、株主への信任義務の観点(マネジメント・カーブアウト・プランは、本来株主が受け取るはずであった金額を役職員に分配するものであるから、少ない金額の方がこの点の説明はつきやすい)という、相反する2つの観点を考慮する必要があります。M&A対価の10%前後(5%から15%の間)が一般的なようです。
マネジメント・カーブアウト・プランの付与額は、最初から個々の従業員ごとに金額を特定して決めることもあれば、総額を(固定額、又はM&A対価の一定割合で)まず決め、それを対象となる個々の役職員に割り当てるケースもあります。M&A対価の一定割合で総額を決める場合、高額なM&Aイグジットを達成するインセンティブを付与するため、M&A対価が一定以上になった場合は比率を高めることもあります。例えば、M&A対価の一定額までの部分はその10%、それを超える部分についてはその15%とする、などです。
付与対象者の決定方法は、典型的には以下のように行われます。まず、取締役会がプランの導入を決定しますが、その中では、対象者の範囲は、フルタイムの従業員など、抽象的に決められるのが一般的です。具体的な対象者の決定は、プランの導入を取締役会が決定した後、その委譲に基づき、CEOなどが行います。対象者は、プランの原資が限られていることから、M&Aの成功のため重要な役割を果たす従業員に対して十分なインセンティブを付与するという観点で、経営陣及び一部の幹部職員に限定されることが多いとされています。付与対象者を特定するタイミングは、プラン導入時に特定しておく場合と、プラン導入時は導入の決議だけ行い、対象者を特定するタイミングはM&Aの実行前とするケースに分かれます。前者は、個々の役職員に予めプランの対象であることを告げられるため、採用又はリテンションの観点でメリットがあります。マネジメント・カーブアウト・プランが従業員のリテンションのために導入されるものであることを考えると、この点は重要なポイントです。他方、プランの対象となった従業員が必ずしもM&Aに貢献するとは限らず、また、役職員にM&A貢献のためのインセンティブを引き出す観点では、実際の貢献度に応じて事後的に決定する方法にメリットがあります。なお、プランの対象者が決定された後、会社と当該対象者との間で、プランの付与に関する契約が締結されます。
マネジメント・カーブアウト・プランでは、M&Aのクロージング後まで会社に残っていること(ただし、クロージング前一定期間内に正当な理由なく解雇された場合は例外とされることが多い)がプランの付与を受ける条件として定められることが多いです。このため、その前に退職した役職員はプランの付与を受けられず、その分については取締役会やCEOなどが他の割当者を決定できるようにしていることが多いです。他方、クロージング前一定期間内に退職した役職員に対しても、それまでの取引への貢献に報いる趣旨でプランが失効しないようにすることもあります。
また、プランの参加者がストック・オプションなどのエクイティ・インセンティブで受け取れた金額を控除する定め(カットバック)を置くこともよくあります。プラン導入時より企業価値が増大する等して、想定外のエクイティ・インセンティブが取れた場合には、エクイティ・インセンティブで役職員へのインセンティブとして十分と考えられ、別途株主(特に普通株主)の取り分を犠牲にしてまでカーブアウト・プランを付与する必要はないという考えによります。
[参考文献]
Management Carve-Out Plans
Management and Common Stockholder Resistance to Acquisitions, and Using Carve-Outs to Overcome It
Carving Up the Pie: Using Change in Control Carve-Out Plans to Incentivize Startup Employees
2.米国の裁判例
この問題に関するリーディングケースである、Trados Inc Shareholder Litigation判決(デラウェア州衡平法裁判所2013年8月16日判決)について解説します。
なお、判決文はこちらです。また、影響を含めた解説として以下のものがあります。
In re Trados: Important Lessons for Directors on Fiduciary Duties to Common Stockholders
(1)事案
TRADOS Inc.(以下「Trados」といいます。)は1984年に設立された翻訳ソフトの会社です。同社は2000年頃から成長資金の調達とIPOを目指して複数のVC等の投資家から出資を受け、VC等が数回の資金調達ラウンドを通じて主に優先株式で出資し、取締役も派遣していました。同社の売上は成長してはいたものの、業績は2002年に買収したUniscape社のPMIに難航するなど順調とはいえず、同社に投資しているVCが満足する水準には至らず、追加の資金調達が難しい状態になりました。このため、取締役会は2004頃にCEOを交代させるとともにイグジットを模索しはじめました。CEOの交代もあり2004年第4四半期からTrados社の事業は好転していましたが、イグジットを進める一環として、Tradosの取締役会は2004年12月に、いわゆるマネジメント・カーブアウト・プランであるMIP(Management Incentive Plan)を導入しました。
その上で、2005年4月11日にTradosは、SDL plc(以下「SDL」といいます。)との間でLOIを締結し、同年6月にTrados社はSDL社に約60百万ドル(うち50百万ドルが現金、残りがSDL株式)で売却されました(6月15日に取締役会承認、その2日後に株主総会承認)。なお、売却のスキームは、判決文を見る限り合併と思われます。なお、米国のスタートアップM&Aでは、とりわけ株主数が多い場合は合併スキームとするのが一般的ですが、その点については、こちらで解説しています。
合併対価の分配ですが、同社の優先株主は、定款のみなし清算条項に従い57.9百万ドルについて普通株主に先立ち合併対価を受領する権利を持っていましたが、MIPによる支払いが7.8百万ドル生じたため、まずTradosの経営陣がMIPに基づき7.8百万ドルを受け取り、残りの52.2百万ドルを優先株主が受け取ることとなりました。普通株主への分配額はゼロでした。なお、優先株主の受け取った52.2百万ドルは、優先分配額の57.9百万ドルを下回っていますが、これには未払配当の累積分が含まれており、優先株主の投資額自体は上回っていました。仮にMIPがなかったと仮定した場合は、普通株主は60百万ドルから優先株主への優先分配額である57.9百万ドルを控除した差額である、2.1百万ドルを受け取れたはずでした。
なお、合併当時Trados社のCEOであったCampbell氏は、合併後SDLのPresident and Chief Strategy Officerとなり、SDLの取締役にもなりました。また、7.8百万ドルのMIPは、Trados社のCEOであったCampbell氏が30%分の2.34百万ドルを、Tradosの創業者・取締役であったHummel氏が1.092百万ドル分を受け取りました。なお、Hummel氏もM&A後SDLで雇用されており、M&A前と同水準の給与を受け取っていました。
Tradosの普通株式の5%を保有していた原告は、2005年7月に株式買取請求を行い、さらに2008年7月には、株式買取請求の中のディスカバリーで得た情報をもとに、Tradosの合併を承認したTradosの取締役が忠実義務に違反するとして損害賠償請求を求めて、デラウェア州の裁判所に訴訟(個人として及び普通株主のクラス代表者として)を起こしました。原告は、合併は、投資のイグジットを図りたい一部の優先株主の指令によるもので、Tradosの取締役会は、同社をSDL社に売却するではなく、独立した企業として事業を継続し、普通株主のために価値を生み出していく信任義務があった、と主張しました。
(2)裁判所の判断
取締役の信任義務違反の審査基準について、利益相反が存在し、かつ利害関係のない取締役の過半数で取引が承認されていない場合は、最も厳格な審査基準である完全な公正(Entire Fairness)基準が適用されます。完全な公正基準が適用される場合、被告は「取扱いの公正さ」(fair dealing)及び「価格の公正さ」(fair price)を立証しなければならないとされています。
Traodsの事案では、裁判所は7人のTradosの取締役のうち6人は「利害関係がなく独立している」取締役に当たらないと判断しました。また、特別委員会も設置されていませんでした。このため、裁判所は完全な公正基準を適用しました。
取締役が「利害関係がなく独立してい」たかどうかについてより詳しく説明しますと、について、まず、合併当時のTradesの7人の取締役は、以下のとおりでした。
・A氏(合併当時のCEO)
・B氏(創業者)
・C氏(VC派遣取締役)
・D氏(VC派遣取締役)
・E氏(VC派遣取締役)
・F氏(社外取締役)
・F氏(社外取締役)
このうち、経営陣であるA氏・B氏は、合併が成立した場合、MIPに基づく相当な額の経済的利益(合併対価の割当)を受けられることになっていました。加えて、A氏は合併後SDLのPresident and Chief Strategy Officer及び取締役となり、年間5万米ドルの給与を得ており、B氏も、合併後SDLで雇用され、合併前と同水準(なお、合併前は年間約19万米ドル)の給与を受け取っていました。裁判所は、これらの事実から、両氏が他の株主とは異なる重要な個人的利益を有しているとして、利害関係があると判断しました。
次に、VCから派遣されてきた取締役(C氏・D氏・E氏)は、VCファンドに対しても信任義務を負っており、VCに対する信任義務と会社に対する信任義務が相反する部分があること(二重の信任義務(dual fiduciaries)の問題)から、「利害関係がなく独立している」取締役ではないと判断されました。すなわち、優先株式で優先分配が受けられ、また、大きな成長の見込めない投資先からは早めに投資回収を図ることを志向するVCファンドの利益とスタートアップの利益は乖離することがあるため、「利害関係がなく独立してい」なかったと判断されました。加えて、裁判所は、実際にこれらの取締役がVCの利害に沿って早期の投資回収を図ろうと動いていた事実も認定しました。
さらに、裁判所は、Tradosが「独立している」と扱っていた2名の取締役(F氏・G氏)のうち、G氏についても利害関係があると判断しました。その理由として、裁判所は「シリコンバレーのスタートアップ・コミュニティを特徴づける相互関係の網」を指摘し、そのような取締役はしばしば深い専門家ネットワークでVCから選ばれ、そのような取締役はVC側に立つ動機があるということを指摘しました。裁判所は、G氏の、TradosのVC派遣取締役やTradosに投資しているVCとの関係を検証し、このビジネス上の関係により、独立性が害されると判断しました。
このような判断の下、裁判所は「完全な公正」基準を適用しました。完全な公正基準の下では、「取扱いの公正さ」「価格の構成さ」が審査されますが、まず、「取扱いの公正さ」について、買収の経緯、交渉及び取引ストラクチャ(MIPを含む)、承認プロセスを検証し、買収が公正なプロセスではなかったと結論付けました。これに対して、「価格の公正さ」については、裁判所は、Tradosが普通株主のために価値を創出するためには資金調達が必要だったものの同社は外部からの資金調達ができなかったとして、合併前の時点で普通株式の価値はゼロだったと判断し、当該合併で普通株式に対価が交付されなかったのは公正だと判断しました。
このため、結論としては、裁判所は原告の法的請求を認容しませんでした。
(3)普通株主と優先株主の利害衝突の場合の行動原理
Tradosの裁判所は、会社が優先株式と普通株式の両方を発行している場合における、取締役が株主に対して負う信任義務について、以下のように判示しています。
「取締役の行為基準によると、取締役は、契約に基づく債権者ではなく、会社の価値の究極的な受益者である残存権者の利益のために会社の価値を最大化するよう、誠実にかつ情報を得た上で努力しなければならない。この義務に照らすと、もしそれが優先株主に対して負う契約上の約束に照らして誠実に実行できるのであれば、会社及び普通株主の最善の利益を追求するのが取締役の義務である。(the standard of conduct for directors requires that they strive in good faith and on an informed basis to maximize the value of the corporation for the benefit of its residual claimants, the ultimate beneficiaries of the firm‘s value, not for the benefit of its contractual claimants. In light of this obligation, ―it is the duty of directors to pursue the best interests of the corporation and its common stockholders, if that can be done faithfully with the contractual promises owed to the preferred.)」
この判示は、従前のデラウェア州の判例法に沿ったものと考えられます。優先株主に対する信任義務について、1977年のJudah v. Delaware Trust Co.事件のデラウェア州最高裁判所判決は「一般論として、優先株主の権利は定款の定めによって規律される。定款は契約法に従って解釈され、定款で具体化された権利のみが優先株主に付与される。(Generally, the provisions of the certificate of incorporation govern the rights of preferred shareholders, the certificate of incorporation being interpreted in accordance with the law of contracts, with only those rights which are embodied in the certificate granted to preferred shareholders.)」と述べています。また、1979年のWood v. Coastal States Gas Corp.事件(ただし、この事案の内容自体は、定款に定められた普通株式への転換の条項に違反したことが問題にされたもので、以下の判示は一種の傍論的なものともいえます。)も、「大半の目的において、優先株主の普通株主に対する権利は、優先株主の種類が創出された際に合意された契約条項により決定される(For most purposes, the rights of the preferred shareholders as against the common shareholders are fixed by the contractual terms agreed upon when the class of preferred stock is created.)」と述べています。他方、1986年のJedwab v. MGM Grand Hotels, Inc.事件のデラウェア州衡平法裁判所判決は、買い手企業から総額が示されたM&A対価を、対象会社(MGM社)の取締役会が普通株主と優先株主でどのように分配するかが問題となり、対価分配に不満を持った優先株主が訴えた事案ですが、この事案で裁判所は、以上のような過去の判例を踏まえつつも、優先株主の優先権や優先株主に付随する特別な制限(これらは定款等により作出される)と、株式であることにより普通株主と優先株主の両方が持つ権利を分けて考え、前者は契約的な性質を持つ権利であり取締役会に裁量がない一方、後者は信任義務の問題が生じると判断しています。この事案で、裁判所は、合併対価の公平な分配、対象会社に合併の交渉に当たり適切な注意を払わせること、支配株主の過度な行為から自由であること、の3点に関して信任義務の論点があると判断しています。
(4)その後の裁判例
Trados事件以後の裁判例として、最近、Amazon. com(以下「Amazon」といいます)によるZoox, Inc(以下「Zoox」といいます)の買収(この案件でも、一種のマネジメント・カーブアウト・プランであるBonus Planが導入されています)に関して、Zooxの普通株主がクラスアクションを起こしています。この訴訟では、2025年6月3日にデラウェア州衡平法裁判所が訴答段階(証人尋問に入る前の争点整理段階)で訴え却下を求める被告の申立てを棄却しており、今後の動きが注目されます。
この事件は、Zooxが13億米ドルでAmazonに売却されたディールに関するものであり、優先株主への優先分配の結果、M&A対価の大半は転換社債保有者と優先株主に分配され、普通株主への分配は1億米ドルにとどまりました。原告は、合併が普通株主に対して不公正であり、合併を承認した取締役会の過半数は利害関係があると主張しました。裁判所は、取引がプロセス及び価格の両面で不公正であると合理的に考えられると判断し、訴え却下の申立てを棄却しました。
この事案では、当初は独立取締役3名による特別委員会で取引が検討されましたが、取締役会がその後独立委員の1名について独立性が失われたと判断したため、最終的には取締役会全体で取引を交渉・承認しています。裁判所は、8名の取締役の内6名について利害関係があると判断しました。そのうち3名は優先株式を保有するVCから指名された取締役であり、かつVCで重要な役割を持っており、裁判所は優先株式・普通株式の支払の相違から、これらの取締役は普通株主と合致しない利害を持っていると判断しました。転換社債保有者に指名された取締役である1名は、Bonus Planの交渉経緯(Bonus Planの支払原資を転換社債保有者が実質的に負担しないことになった)で影響を受け利害関係があると判断しました。ZooxのCEO及びCTOである2名の執行取締役は、合併に伴い賞与が支払われ、また合併後の地位についての期待もあると判断され、利害関係があると判断されました。また、CEOがインタビューで企業評価額の最大化(普通株主の利益最大化)ではなく、Zooxとしての夢の実現という観点でAmazonを売却先として選択したとみられる発言をしたことも、利害関係の判断に影響を与えたようです。
3.日本で導入する場合の留意点
日本でマネジメント・カーブアウト・プランを導入する場合、上述した利益相反の問題を、日本の会社法に照らして検討する必要があります。
この点に関する詳細な検討は控えますが、いくつか指摘します。
まず、マネジメント・カーブアウト・プラン自体についてです。マネジメント・カーブアウト・プランは取締役の報酬に該当すると考えられ、ほとんどのケースでは、マネジメント・カーブアウト・プランについて会社法361条に基づく株主総会承認が必要になると思われます。さらに、報酬は通常株主間契約で事前承認事項とされていますので、VC等投資家の事前承認も必要になると思われます。マネジメント・カーブアウト・プランを導入する際は、これらの手続を踏んで導入すると思われますが、とはいえ、株主総会承認等必要な承認手続きを踏んでいれば、直ちに取締役の責任を追及されるリスクがなくなるというわけではなく、例えば、イグジットを急ぎたいVCと、マネジメント・カーブアウト・プランにより現金報酬が得られる経営株主の議決権行使により、会社の利益に反するM&Aを促進するようなマネジメント・カーブアウト・プランが導入され、さらにマネジメント・カーブアウト・プランによる支払いで会社からその分の現金が流出したとして、任務懈怠による会社に対する損害賠償責任(会社法423条)等を追及されるリスクは否定できず、注意が必要と思われます。また、特別利害関係株主の議決権行使により成立した著しく不当な決議であるとして、会社法361条に基づき取得する役員報酬に関する株主総会決議について、決議取消の訴え(会社法831条1項3号)が提起される可能性も考えられます。このため、とりわけマネジメント・カーブアウト・プランの対象とならない普通株主に対して合理性を説明できる内容か、これらの株主が賛同しているかについて、注意が必要と思われます。
次に、マネジメント・カーブアウト・プランが適用されるM&A取引についてです。この点については、日本のスタートアップM&Aでは株式譲渡が主流であり、株式譲渡は本来各売主と買主との個別の契約に基づき行われるものですので、反対する株主は単に売却に応じなければよいともいえ、言い換えると、株主が任意に売却したのであれば、売却を推奨するにあたりミスリーディングな情報を与えていた等の事情がない限り、それ自体について取締役の責任が認められるリスクは小さいと思われます。ただし、上述したマネジメント・カーブアウト・プランに基づく現金流出は別途問題になり得ると思われます。さらに、全ての株主が売却に応じるとは限らないところ、売却に応じない株主がいる場合は、ドラッグ・アロング条項の発動や、会社法上の株式等売渡請求や株式併合でのキャッシュアウトが検討されることが多いと考えられます。前者については、例えば取締役会で発動を決めた場合はそれに際しての取締役の判断が善管注意義務・忠実義務違反であるとして会社法429条に基づく損害賠償請求(株主に対する第三者責任)がされる可能性も否定できず、後者については、株式等売渡請求に関する価格決定申立て(会社法179条の8)、株式併合に関する株式買取請求(会社法182条の4)で、反対派の株主から争われる可能性があると思われます。
加えて、法人税法上の損金算入の可否も問題となります。日本でマネジメント・カーブアウト・プランを導入する場合、役員(又は従業員)への賞与として導入することが多いかと思いますが、役員への賞与を損金算入するには、法人税法34条1項の定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与のいずれかに該当する必要があります。可能性があるのは事前確定届出給与ですが、スケジュールとの関係で注意が必要です。また、これに該当する場合でも、「不相当に高額」な場合に損金算入できないという制限があることにも注意が必要です。
このシリーズのコラム(米国スタートアップM&Aの法実務と日本への示唆)
(1) Shareholder Representative
(2) 組織再編(逆三角合併)の利用と対象会社株主の補償義務
(3)マネジメント・カーブアウト・プラン(今回)
[ディスクレイマー]
本コラムは、お客様の参考として一般的な情報を提供するものであり、具体的な法的助言を意図したものではありません。また、分かりやすさを保つため、法的には厳密さを欠く表現にしている部分も多くあります。実際の事案を検討される際には、必要に応じて専門家にご相談ください。