このシリーズは、国際取引で英文契約を締結される企業の方むけに、英文契約のポイントについて解説していきます。今回は、一般条項(Boilerplate Clauses)とよばれることが多い、契約書の最後の方に入っている定型的な条項を解説します。契約書の最後に雑則(Miscellaneous)というタイトルの章をおいて、そこにまとめて入っていることが多いです。
よく英文契約書に入れられる一般条項は、以下のとおりです。
・準拠法(Governing Law)
・裁判管轄(Jurisdiction)
・仲裁合意(Arbitration)
・完全合意(Entire Agreement)
・契約書の修正及び権利放棄(Amendment and Waiver)
・分離可能性(Severability)
・通知(Notice)
・公表(Public Disclosure)
・当事者間の関係(Relationship of the Parties)
・費用負担(Cost and Expenses)
・譲渡禁止(Assignment)
・存続条項(Survival)
・見出し(Headings)
・正本(Counterparts)
また、長い文章になることがおおいので、契約書の最後の雑則条項(Miscellaneous)ではなく別の条文とすることが多いと思いますが、秘密保持(Confidentiality)条項も一般条項のひとつに分類されることが多いです。
日本の契約書でもよく見られるもの(裁判管轄、存続条項、譲渡禁止や秘密保持など)もあれば、あまり日本の契約書ではみられないものもあります。日本の契約書ではあまり見られない条項が入る背景としては、英米法が背景にある条項もありますし、あるいは、英文契約の場合は、自分が常識と思っていることも、相手方が同じ常識を共有されているかわからないため、明確化のためにあえて定めておくことが多い、という事情があります。
このうち、準拠法、裁判管轄、仲裁合意については、以前にこちら ↓ のコラムで解説したのでご覧ください。
英文契約のポイント:「準拠法」と「裁判管轄」「仲裁合意」 2024年5月22日
また、秘密保持条項は、やや長くなるので、別の機会に書こうと思います。 このコラムでは、それ以外の条項についてみていきます。
では、さっそくみていきましょう。
1.完全合意(Entire Agreement)
(1)条項のサンプル
(英文)
This Agreement constitutes the entire agreement between the parties and supersedes all prior agreements, understandings, negotiations, and discussions, whether oral or written, of the parties with respect to the subject matter hereof.
(和訳)
本契約は、両当事者間の完全な合意を構成するものであり、本契約の対象事項に関する両当事者間の全ての従前の合意、了解、交渉及び協議(口頭によるものか書面によるものかを問わない)に取って代わるものである。
(2)解説
完全合意条項というのは、この契約の対象とする事項について、内容を追加・修正・否定する合意を証拠として提出しても、この契約の内容は修正されません、ということを言っています。こう書くとなんだか難しそうな感じですが、この契約書に書いてあることについては、この契約書の内容が、この時点での合意のすべてですよ、ということです。もともとは、英米法のParol Evidence Ruleに由来する条項といわれています。
完全合意条項があると、たとえば、この契約に書いてある事項について、実はそれ以前に〇〇〇契約、という別の契約を締結していて、そこには・・・・と書いてあります、だから・・・です、みたいなことが言えなくなるわけです。また、この契約書にはなにも書いていないけれど、・・・という了解でおたがいに交渉して契約を締結したんだから交渉の経緯を考えると・・・しなければならないはずだ、といった主張もできなくなります。ただ、後半の点については、(区別がやや難しいところですが)この契約書に・・・と書いてあるけど、この言葉はどういう意味で使っているんだろう、という「契約文言の解釈」をする際に、交渉経緯などを根拠として使うことはできる(のではないか)と言われています。
完全合意条項を入れると、契約書に書いていないことについて、「実は・・・と合意していたのです」といったことは言えなくなります。このため、きちっと合意した内容が契約書に書いてあるか、いつも以上に注意して契約書をチェックする必要があるということです。
2.契約書の修正及び権利放棄(Amendment and Waiver)
(1)条項のサンプル
(英文)
This Agreement may be amended, modified, or supplemented only by a written instrument executed by both parties. No waiver of any provision of this Agreement shall be effective unless set forth in a written instrument signed by the party waiving such provision. The failure of either party to enforce any provision of this Agreement shall not be construed as a waiver of such provision or of the right to enforce it at a later time.
(和訳)
本契約は、両当事者により締結された書面によってのみ改訂、修正又は補充できるものとする。本契約のいかなる条項の権利放棄も、かかる条項についての権利を放棄する当事者が署名した書面に記載されない限り効力を有しない。いずれかの当事者が本契約のいずれかの条項を履行するよう主張しなかったことは、かかる条項の権利放棄又は履行するよう後日主張する権利の放棄と解釈されてはならないものとする。
(2)解説
第1文は、契約書の内容を変更するときには、変更覚書を結ぶとか、両当事者が署名する書面でやらなければいけない(それ以外の方法、たとえば口頭のやりとりで「契約書では・・・となっているけど、・・・ということにしましょう」とかあったとしても、契約の内容は変更されません)という意味です。契約書の条項にもとづいて権利を主張したところ、「その部分は、契約書の締結後に口頭で・・・と合意されたので、変更されています」と反論されてしまうと、ややこしくなってしまう(そもそもそんなやりとりがあったかどうかなど、やり取りした人しかわからなかったりするし、昔のことだと当人も記憶が薄れていたり会社を辞めて連絡が取れなくなっていたりする)ので、このような条項を置くことが多いです。ただ、このような条項を置いてしまうと、契約書に書いてある条項が実態に合わないと思って変更しようとする場合、いちいち変更覚書を締結しなければいけないことになるので、面倒な面もあります。
ところで、上に書いた完全合意条項と、この第1文は、どういう関係になるのでしょうか。完全合意条項は、契約書締結「前」に・・・という合意をしていました、という主張ができなくなる条項です。これに対して、今回の修正条項は、契約書の締結「後」に、口頭で・・・という修正を合意しています、という主張ができなくなる条項です。
第2文も、似たようなことを書いているのですが、権利を放棄するときは、その権利を放棄する当事者がサインした書面があればいいので、第1文とは書き分けているわけです。つまり、権利放棄は、放棄する(不利益を受ける)当事者がOKしていればよく、利益を受ける当事者(相手方)がOKしてなくても、相手方には迷惑かけないので、構わないからです。
第3文は、契約書上の権利を主張しなかったときに、「権利を行使していなかったんだから、もう権利を放棄したってことですよね」と相手方から言われないようにするための条項です。
3. 分離可能性(Severability)
(1)条項のサンプル
(英文)
In the event that any provision of this Agreement is determined to be illegal, invalid, or unenforceable by a court of competent jurisdiction, such provision shall be deemed to be severed and deleted from this Agreement, but all other provisions of this Agreement shall remain in full force and effect. The Parties agree to negotiate in good faith to replace any such illegal, invalid, or unenforceable provision with a legal, valid, and enforceable provision that, to the maximum extent possible, achieves the original intent of the Parties.
(和訳)
管轄裁判所により本契約のいずれかの条項が違法、無効又は法的拘束力がないと判断された場合、かかる条項は本契約から切断及び削除されたものとみなされるが、本契約の他の全ての条項は引き続き完全な効力を有するものとする。両当事者は、かかる違法、無効又は法的拘束力がない条項を、両当事者の当初の意図を可能な限り最大限実現する適法、有効かつ法的拘束力のある条項に置き換えるべく、誠実に協議することに合意する。
(2)解説
契約書のある条項が「無効」とされた場合に、契約全体が無効となってしまわないようにするための条項です。
日本法を基準に考えると、このような条項を契約書に入れていなかったとしても、普通は、ある条項が無効にされたことで契約全体が無効になるわけではないと思いますし、逆に一つの条項でも契約の中心になるような部分が公序良俗違反などで無効にされた場合は、たとえこのような条項を契約に書いておいたとしても、契約全体が無効と扱われる可能性はあるでしょう。そうすると、このような条項が入っているかどうかでどの程度違いが出るのかは正直わからないのですが、国内の契約でも、比較的みかけることの多い条項です。
4. 通知(Notice)
(1)条項のサンプル
(英文)
Any notice, request, demand, or other communication required or permitted to be given under this Agreement shall be in writing and shall be deemed to have been duly given and received: (a) on the date of delivery if delivered personally to the party to whom notice is given; (b) on the fifth business day after being sent by internationally recognized courier service which provides a delivery receipt, including DHL and Federal Express, or (c) on the date that the party to whom notice is given confirms its receipt if sent by facsimile or email. Notices shall be sent to the addresses set forth below (or to such other address as a party may designate by notice to the other parties pursuant to this section).
<Party A>
ABC Incorporated
Attention: John
xxx, Chicago, 00000, USA
Facsimile: xxx
Email: xxx@xxx
<Party B>
XYZ Co., Ltd.
Attention: Smith
XXX, Fukuoka-prefecture, 00000, Japan
Facsimile: yyy
Email: yyy@yyy
(和訳)
本契約で要求又は許容される一切の通知、要請、要求又はその他のコミュニケーションは、書面でなされなければならず、以下の時点で通知が適式に行われかつ受領されたものとみなされる。(a)通知がされるべき当事者に手交された場合は、交付された日、(b)配達証を発行する国際的に認知されたクーリエサービス(DHL及びフェデラルエクスプレスを含む)の場合は送付後5営業日目の日、(c)ファクシミリ又は電子メールで送信する場合は、通知がなされた当事者が受領を確認した日。通知は、下記宛先(又は当事者が本セクションに従い他の当事者に通知することで指定した他の宛先)に送付されなければならない。
<当事者A>
(以下和訳は省略)
(2)解説
契約上で送らなければいけない通知をどこに送ったらいいか、いつ到着したと扱うか、を書いた条項です。
この条項を書く時の注意点ですが、国際取引では、郵便などの時間がどうしても国内よりかかってしまうため、到着したと扱う時点や送り方を考えるときには、実際にかかる時間を考慮して、問題ないか確認しておく必要があります。また、日常的なコミュニケーションは電子メールなどで行うことが多いと思いますが、契約上の重要な通知も電子メールで送っていいことにするかは検討が必要です。うっかり見逃す、迷惑メールフォルダに入って気づかない、あるいは担当者が休暇でメールを見ていないかもしれないためです。大事な通知が電子メールで送られていて、到着していたことに気づかないまま日数が立っていたような場合は面倒なことになります。例えば、違反の是正を求める通知が届いていたのに、担当者が電子メールに気づかず、そのまま何もせず日数が経過して契約が解除されてしまった、といったことが起こるかもしれないからです。このため、電子メールで契約上の通知を送ることを許容する場合は、受領確認をした時点で通知が到着したと扱うなど、工夫したほうがいいと思います。
5.公表(Public Disclosure)
(1)条項のサンプル
(英文)
No party shall issue any press release or make any public statement or disclosure regarding the existence, subject matter, or terms and conditions of this Agreement unless the parties agree in writing about the contents, method and timing thereof. If a party is required by law or a valid governmental order to make a public disclosure, it shall, to the extent legally permissible, give the other party reasonable advance notice of the proposed disclosure, and discuss method and contents of the disclosure in good faith with the other party.
(和訳)
当事者は、両当事者間でその内容、方法及び時期について書面で合意した場合を除き、本契約の存在、対象事項又は条項について、プレスリリースを発行してはならず又はその他の公の声明若しくは開示をしてはならない。当事者が、法又は有効な政府の命令により公の開示を要求される場合においては、かかる当事者は、法的に許容される限りにおいて、開示案について合理的な事前通知をなし、開示の方法及び内容について他の当事者と誠実に協議するものとする。
(2)解説
取引について、他の当事者が勝手に開示しないように、入れておく条項です。情報管理に関する条項なので、秘密保持(Confidentiality)条項と重なる部分が多いです。ただ、こちらの公表(Public Disclosure)条項は、プレスリリースなどの公表を主に念頭に置いていて、内容やタイミングについて両者で合意したうえで公表しましょう、という点に主眼があります。
6.当事者間の関係(Relationship of the Parties)
(1)条項のサンプル
(英文)
The relationship between the parties hereto is solely that of independent contractors. Nothing contained in this Agreement shall be deemed to create any partnership, joint venture, employment, or agency relationship between the parties.
(和文)
本契約の当事者間の関係は専ら独立事業者間の関係である。本契約のいかなる条項も、パートナーシップ、合弁、雇用又は代理関係を当事者間に創出するものとみなされてはならない。
(2)解説
両当事者が独立当事者関係であることを明確にするための条項です。パートナーシップ、合弁、雇用、代理と疑われるような要素のない取引だったとすると、あまり意味はない条項にはなりますが、そのような場合でも、相手方当事者の誤解を避けるため、入れておくこともあります。
7.費用負担(Cost and Expenses)
(1)条項のサンプル
(英文)
Except as otherwise expressly provided in this Agreement, each party shall bear its own costs and expenses incurred in connection with the negotiation, execution, and performance of this Agreement, including without limitation legal fees, accounting fees, and other professional fees.
(和文)
本契約に明示的に異なる定めがされている場合を除き、各当事者は本契約の交渉、締結及び履行に関連して発生した自らの費用(法律顧問料、会計顧問料その他の専門家費用を含むがそれに限られない)を負担するものとする。
(2)解説
特約がない限り、自己の費用は自己負担、ということを念のため書いている条項です。相手方のビジネスの慣習では、違う慣行があるかもしれないためです。
8.譲渡禁止(Assignment)
(1)条項のサンプル
(英文)
Neither this Agreement nor any right or obligation hereunder may be assigned by any party without the prior written consent of the other Parties, and any attempted assignment without the required consents shall be void.
(和訳)
本契約又はそれに基づく一切の権利若しくは義務は、相手方当事者の書面による事前同意がない限り、いずれも当事者によっても譲渡できないものとし、必要な同意なくして企てられた譲渡は無効とする。
(2)解説
契約上の地位や権利義務の譲渡を禁止する条項なのですが、そもそも契約上の地位や権利義務の譲渡とはどのようなものかを、まず説明しておきます。
① 「契約(の地位)の譲渡」・・・AさんがBさんに自動車を売るという契約を締結した場合に、契約当事者をBさんがCさんに変える、というケースで、その場合、Cさんが買い手になり、Aさんから自動車を受け取るとともにAさんに代金を払うことになります。
② 「契約に基づく権利の譲渡」・・・例えば、上のケースで、AさんがCさんに、自動車の売買代金を受け取る権利を譲渡するケースです。自動車がAさんからBさんに引き渡されるのは変わりません。
③ 「契約に基づく義務の譲渡」・・・たとえば上のケースで、代金支払いの義務を、BさんがCさんに移すケースです。
このようなことが起きると、相手方としては面倒なので、契約で禁止するのですが、仮にこのような条項が契約に入っていなかったとしても、法律上、勝手にできないことが多いです。例えば、日本法だと、①の契約上の地位の譲渡や、③の契約に基づく義務の譲渡(免責的債務引受とよばれます)は勝手にできないです。他方、②の権利の譲渡(債権譲渡とよばれます)は勝手にできるので、契約で禁止しておく意味があります。ただ、②の権利の譲渡については、契約で禁止したとしても、権利譲渡を止められない(上のケースでは、権利を譲り受けたCさんから代金を払うよう求められたら応じなければならない)場合があります(日本法では、民法466条2項3項)。もっとも、Bさんは勝手に権利を譲渡してしまったAさんに契約違反の責任を追及することができますので、契約で禁止しておく意味はあります。
9.存続条項(Survival)
(1)条項のサンプル
(英文)
The provisions of Section 3 (Fee and Payment), Sections 5 (Confidentiality), 8 (Indemnification), 9 (Assignment), 10 (Governing Law), and 11 (Jurisdiction) shall survive the termination or expiration of this Agreement.
(和訳)
第3条(報酬及び支払い)、第5条(秘密保持)、第8条(補償)、第9条(譲渡禁止)、第10条(準拠法)及び第11条(裁判管轄)の条項は、本契約が解除又は失効した後も存続する。
(2)解説
ふつう、契約書の「契約期間」というのは、契約の主目的であるサービスの提供期間(例えば、業務委託だったら委託されたサービスの提供期間、賃貸借だったら、賃貸借物件を使える期間)を指しています。契約が終了した後で、契約期間中に起こったトラブルで受けた損害の賠償を請求しようとしたときに、契約書の中の損害賠償に関する条項や準拠法・裁判管轄の条項も、契約が終了したのだから失効してしまっています、となってしまうとおかしいでしょう。むしろ、トラブルが起きて、契約が解除されたような場合にこそ、損賠賠償や裁判の問題が起こるので、そのような場合にこれらの条項が使えないというのでは意味がないからです。しかし、契約が終了したのだから、これらの契約書の条項も効力がなくなったはずだ、と言い出す人が出てきかねないので、トラブルを予防するため、そのような条項は契約終了後も有効に残ります、と契約書にはっきり書いておくわけです。
なお、この条項は、契約交渉をしている間に、色々契約書の文言を書き換えて条文番号がずれたりすると、それにあわせて直さなければいけないので、地味に面倒な条項です。条文番号がずれたのに、存続条項(Survival)に反映するのを忘れた、というのは、けっこう起こるからです。また、契約書全体をきちっと読み直して、ひとつひとつ、この条項も存続条項の対象にすべきなのか、考えるのも結構手間のかかる作業です。特に、ある条項の一部は契約終了後も存続させた方がよさそうだが、それ以外は契約終了後は義務が発生しないよね、という場合に、では存続(Survival)条項ではどう書いたらいいだろう、というのは悩ましかったりします。しかし、そもそも、ある権利義務が契約終了後も残るべきなのかどうか、というのは、人によって意見が分かれることは正直あまりないので、契約書のSurvival条項を一生懸命作るのは正直生産性のない作業のような気がします。
個人的には、このような条項の書き方をするよりも、「契約期間」の意味について契約書に明記しておくのがよいのではないかと思います。すなわち、契約期間というのは、多くの場合、契約の主目的であるサービスの提供期間を意味しているわけで、契約期間が終わるというのは、そのサービスの提供期間が終わるだけであって、契約書が全く存在しないのと同じになるとはだれも考えていないわけです。だとすると、「契約期間というのは第〇条に定める義務及びそれに付随する義務を履行する期間です」、と端的に書けばよいと思います。あるいは、そもそも「契約期間」という言い方がミスリーディングなのだとすると、「サービス提供期間」など別の言い方の方がいいかもしれません。そのうえで、契約期間中になされた当該サービスの対価や契約期間中の問題に基づき発生した損害賠償等の請求は、契約期間終了後も引き続き行使できる(つまり、契約期間中に提供された当該サービスの対価で未払のものがあれば契約期間終了後でも払わなければいけないし、サービスに問題があれば損害賠償もしなければならないということ)、と契約書に書いておけば足りるように思います。
10. 見出し条項(Headings)
(1)条項サンプル
(英文)
The headings of the clauses in this Agreement are for convenience only and shall not affect the interpretation of any clause.
(和訳)
本契約の条項の見出しは専ら便宜のために付されたものであり、何らかの条項の解釈に影響を及ぼすべきではない。
(2)解説
長い契約だと、各条文に見出しがあるととても便利です。しかし、見出しが契約解釈に影響してしまうと、いちいちどういう見出しを付けるべきか考えなければいけなくなり、安心して見出しをつけられなくなります。また、契約書を作るときに「見出しをどう書くか」をめぐって相手方と不毛な交渉をすることになりかねません。このように契約の内容には影響しないと決めておけば、そのようなことを気にせず、安心して見出しを付けられます。これが、見出し条項を入れる意味です。
なお、このような条項が入っていたとしても、やはりミスリーディングな見出しをつけるのは避けるべきです。長い契約だと、全部の条項を読んでいる時間がないので、見出しをみて、関係しそうな条項がないか探すことが多いです。ミスリーディングな見出しを付けると、どうしても内容の誤解を生んでしまい、無用なトラブルの原因になるからです。
11.正本(Counterparts)
(1)条項サンプル
(英文)
This Agreement may be executed in any number of counterparts, each of which shall be deemed an original, but all of which together shall constitute one and the same instrument.
(和訳)
本契約はいくつかの正本で締結することができ、その各々が原本とみなされるが、その全てをあわせて一つの同じ文書を構成する。
(2)解説
この正本条項(副本条項と訳されることもあります)は、日本人には意味が理解しづらい条項の一つだと思います。そもそも前提となっている契約締結の実務が日本と違うからです。
日本では、契約を締結するとき、誰かが当事者分だけ製本して、製本した原本に順々に押印していくのが普通です。ただ、このような方法だと、契約書ができるのに、どうしても時間がかかってしまいます。
このため、海外では、契約書のサインページに自分だけがサインして、それを持ち寄って1か所に集めて契約書を作ることがあります。例えば、A、B、Cの3名の契約で、Aだけがサインしたサインページ、Bだけがサインしたサインページ、Cだけがサインしたサインページをそれぞれ持ち寄り、それらを合体して一つの原本を作る、といったやり方です。1ページのサインページにA、B、Cのサイン欄がある場合は、たとえばAがサインするサインページは、B、Cのサイン部分は空欄とします。BやCがサインする時も同じです。こうすることで、迅速に契約を締結できるわけです。
さらには、サインページの原本を物理的に交付するのではなく、契約締結日に電子メールでサインページのスキャンしたPDFファイルを送り、それが全て集まることで契約締結とすることも多いです。そのあと、サインした紙の原本を送って、記録用に紙の契約書を作ることもありますが、このPDFのやりとりだけで終わりとして、紙の原本の授受はやらないこともあります。なお、上の文言だけだと、PDFの交換で契約締結とするとまで書いていないので、たとえば「Signature pages may be exchanged electronically, including via scanned PDFs, and such electronic copies shall be valid and binding as originals.」といった文言を入れることもあります。
ただ、最近は(日本でもそうですが)いわゆる電子署名が普及してきましたので、この、サインページのPDFを電子メールで送りあう、という方法ではなく、DocusignやAdobeSignなどの電子署名を使うケースが多くなっている印象です。その場合、たとえば、「The parties agree that this Agreement may be executed and delivered by electronic signatures and that the signatures appearing on this Agreement are the same as handwritten signatures for the purposes of validity, enforceability and admissibility.」といった文言を入れることもあります。
[ディスクレイマー]
本コラムは、お客様の参考として一般的な情報を提供するものであり、具体的な法的助言を意図したものではありません。また、分かりやすさを保つため、法的には厳密さを欠く表現にしている部分も多くあります。実際の事案を検討される際には、必要に応じて専門家にご相談ください。