
このコラムでは、米国でM&Aの手法としてよく使われている「逆三角合併」について、分かりやすく解説します。
著者:宗像孝純(宗像国際法律事務所 事務所代表弁護士・米国公認会計士(Inactive))
1.米国での逆三角合併
(1)概要
逆三角合併(Reverse Triangular Merger)とは、買い手企業が受皿会社(Merger Sub)を設立したうえで、受皿会社(Merger Sub)を消滅会社、対象会社を存続会社として合併する組織再編方法です。逆三角合併は、米国のM&Aでは広く使われています。
逆三角合併の仕上がりは、対象会社が受皿会社(Merger Sub)と合併し、買い手企業の100%子会社になります。対象会社の株主には、合併相手である受皿会社(Merger Sub)から、買い手企業の株式などが合併対価として交付されます。
(2)米国税法上の取り扱い
米国税法上、逆三角合併は、対価の種類やその比率、存続会社による消滅会社の事業の継続などの要件を満たすと、非課税再編(tax-free reorganization)として扱われるようです。
(3)(正)三角合併と「逆」三角合併
合併対価として親会社の株式を交付する合併を「三角合併」(triangular merger)といいます。「三角」合併と呼ばれる理由は、買い手企業、受皿会社、対象会社という三者で行うためです。
三角合併は、(正)三角合併(forward triangular merger)と逆三角合併(reverse triangular merger)に分かれます。冒頭に述べた取引ストラクチャが「逆」三角合併と呼ばれている理由は、対象会社「に吸収合併させられる」(対象会社が存続会社となる)ためのようです。
なぜ対象会社を合併存続会社にするのか:
(正)三角合併ではなく逆三角合併を使う理由、言い換えると対象会社を合併存続会社にする理由は、許認可や契約の承継の問題が生じづらくするためです。
このうち、契約の承継については、契約書の中に承継禁止条項(anti-assignment clauses)がある場合は、対象会社を消滅会社とすると、対象会社から受皿会社への承継として、この条項の違反になるのではないかとの懸念があるとされています。特に、ライセンス契約の場合は、実際に違反を認めた裁判例があるようです。このようなことから、対象会社を合併存続会社とすること(逆三角合併とすること)が選好されます。このように、承継禁止条項(anti-assignment clauses)との関係では、対象会社と受皿会社(Merger Sub)のどちらを存続会社にするかで、違いが生じる可能性があります。
なお、契約書にチェンジ・オブ・コントロール条項(CoC)が入っている場合、当該条項との関係においては、どちらを存続会社にした場合でも、通常は同じ結果になると考えられます。
(4)通常の合併との比較
仕上がりについて:
通常の、二当事者間の合併と比較すると、まず、仕上がりについては、買い手企業と対象会社が一つの法人になるのではなく、別法人のままで、100%親子関係になるという点が違いです。
手続面について:
三角合併では、合併の当事者は受皿会社(Merger Sub)と対象会社であり、買い手企業自体は合併の当事者とはなりません。このため、手続面では、買い手企業の株主総会での合併承認が不要になるというメリットがあります。なお、買い手側では受皿会社(Merger Sub)においては株主総会承認が必要です。もっとも、受皿会社の株主は買い手企業の1社だけですので、容易に承認を取ることができます。
他方、対象会社側では、通常の合併と同様、株主総会承認をとる必要があります。
(5)株式譲渡との比較
最後に、株式譲渡との違いです。逆三角合併は組織再編なので、会社法上の手続をとる必要があり、この点はデメリットです。他方、個々の株主との間で株式譲渡契約を締結せずとも、株主議決権の過半数の賛成(デラウェア州)で全ての株主との関係で取引を実行できるメリットがあります。このため、対象会社に多くの株主がいる場合は、逆三角合併のような組織再編手法が、効率性及びホールドアップ・イシューへの対処の観点で、選好されます。
なお、対象会社が上場会社の場合、株式譲渡を使うと公開買付規制の対象にもなりえます。
2.日本でも可能か?
(1)日本の会社法下では「逆」三角合併は使えない
上記のとおり、合併対価として、存続会社の親会社の株式を交付する合併を「三角合併」といいますが、「三角合併」自体は、日本でも会社法制定時の合併対価柔軟化に伴い、2007年から利用できるようになりました。
もっとも、日本の会社法では、合併対価が交付されるのは消滅会社の株主であって存続会社の株主ではありません(会社法749条1項2号参照)。このため、日本で三角合併をするのであれば、対象会社を消滅会社、受皿会社(Merger Sub)を存続会社とする、(正)三角合併しかありません。仮に対象会社を存続会社にしてまうと、対象会社の株主には合併対価が交付されず、そのまま株主として残ってしまいます。そうすると、対象会社株主から対象会社株式を取得して対価として合併対価を交付し、対象会社を買い手企業の完全子会社にする、という目的は達成できなくなります。
(2)日本で同様の目的を達成する手法:株式交換
しかし、許認可の承継などを考えると、受皿会社(Merger Sub)を存続会社とするより、事業を営んでおり許認可等を持っている対象会社を存続会社とする方が、通常は合理的です。日本ではそのようなことができないのか、というと、日本の会社法上は、「株式交換」という制度を使って、同様の目的を達成することが可能です。
米国における株式交換:
「株式交換」(binding share exchanges)も米国法を母法とした制度です。米国では、1975年にバージニア州が一般会社法に導入し、翌1976年に模範事業会社法(MBCA)が同様の制度を採用し、約40州にまで普及したとされています(森本編「会社法コンメンタール」17巻(2010)410頁(中東)参照)。もっとも、米国の上場企業の多くが設立準拠法として採用しているデラウェア州法では、「株式交換」の制度がありません。このため、上記のとおり、現在でも逆三角合併が用いられています。
また、上述のとおり会社法上株式交換の制度が用意されている州の数は多いものの、一般的には株式交換より逆三角合併が選好される傾向があるようです(Christopher S. Harrison「Make the Deal」(2016)294頁参照)。例外的に株式交換の利用が検討されるのは、対象会社と取引先との契約で対象会社の合併に制限が課されている場合など合併スキームを回避する理由がある場合です。背景としては、米国のM&A関係者が逆三角合併に習熟しており、逆三角合併を使った方がディールがスムーズに進む、ということがあろうかと思われます。
株式交換と逆三角合併の比較:
逆三角合併と比較すると、「株式交換」では受皿会社(Merger Sub)の設立も必要なく、より直接的に完全親子関係を創出できるメリットがあります。さらに、米国と異なり、「逆」三角合併が使えない日本の会社法下では、株式交換では完全子会社となる対象会社の法人格がそのまま存続するため、許認可の承継などの問題を生じづらくなるというメリットもあります。従って、日本で完全親子会社化を図る組織再編の手法としては、三角合併より株式交換の方が便利といえます。
(3)日本での三角合併
では、日本では「三角合併」を使うメリットはないのでしょうか。
日本の会社法上、株式交換の当事会社は日本の株式会社に限られ、国際株式交換はできないとされています。このため、国境を越えて100%親子関係を創出する手法としては、日本の会社法上の株式交換は利用できません。そこで、「三角合併」を使うことが考えられます。すなわち、海外の企業が日本に設立した受皿会社(Merger Sub)と日本の対象会社を合併させる手法を使えば、海外企業による日本の会社の買収にも利用できます。日本の三角合併という制度は、もともと国際的な株式交換を実質的に可能にする制度として、このような局面での利用を念頭に置いて導入された経緯があります。
[ディスクレイマー]
本コラムは、お客様の参考として一般的な情報を提供するものであり、具体的な法的助言を意図したものではありません。また、分かりやすさを保つため、法的には厳密さを欠く表現にしている部分も多くあります。実際の事案を検討される際には、必要に応じて専門家にご相談ください。