今回のコラムでは、B to C(消費者相手)のオンラインショップでよくある法的トラブルを解説します。
<内容>
Q1(ユーザが間違って注文した)
Q2(ショップが間違った値段を書いてしまった)
Q3(未成年者との取引)
Q4(クレジットカードの不正利用)
では、ひとつひとつ見ていきましょう。
Q1(ユーザが間違って注文した)
(Question)
オンラインショップで商品を販売したところ、ユーザーが、「1個だけ買うつもりだったのに、10個セットをクリックしてしまった。注文を取り消したい」と言ってきました。
応じなければいけないのでしょうか?
(Answer)
ユーザーが本当に間違って押したのだとするとですが、
正式な注文ボタンの前に申込内容確認画面を表示した場合などは、応じなくていいことが多いと思います。
そのような措置を取っていない場合は、応じる必要があります。
【解説】
この問題に関係するのが、「電子消費者契約に関する民法の特例に関する法律」という法律と、「民法」の95条です。
1.法律はどうなっている?
民法という取引の原則的なルールを定めた法律では、間違って、本当の意思とは違う意思を表示してしまった場合(注文ボタンをクリックするのは、その商品を注文するという意思の表示です)、「重大な過失」がある場合以外は、取り消すことができるようになっています(民法95条1項3項)。
今回のケースも、本当は1個だけ注文する意思だったのに、間違って10個注文するという意思を表示してしまったケースです。なので、ユーザーに「重大な過失」があれば取り消せない、ということになりそうです。
しかし、B2CのEコマースには、「電子消費者契約に関する民法の特例に関する法律」という法律が優先的に適用されます。この法律によると、ユーザーに重過失があっても取り消せることになっています。ただ、ユーザーの意思確認措置を講じた場合や、ユーザーが意思確認措置が不要と通知してきた場合は、上の民法のルール通りになります。
そうすると、
・意思確認措置などを講じている
・ユーザーに重過失がある
場合は、取消を断ってもいいということです。
2.意思確認措置
現在多くのオンラインショップでは、正式な申込のボタンを押す前に、申込内容が表示され、それを確認した上で正式な申込ができるようになっています。それが意思管理措置です。
意思管理措置があったとすると、次に「ユーザーに重大な過失があったか」を考えます。
3.ユーザーの重過失
「重大な過失」とは、わずかな注意を払えば防げたようなケースです。1個の単品購入と10個セットを間違ってクリックしてしまったという場合、確認画面もあるので、普通はわずかな注意を払えば防げるといそうです。
もっとも、画面が紛らわしく、「これだと、間違ったまま正式な注文をしてしまうこともあり得るよね」と感じられるような画面だと、ユーザーの「重大な過失」が否定される方向に働くでしょう。そうすると、やっぱりユーザーは注文取消ができるという方向になります。
4.そもそも本当に間違ってクリックしたのか?
もっとも、実際にユーザーがこのような主張をしてきたときにまず問題になるのは、「本当に間違ってクリックしたのか」ということでしょう。後から「やっぱり1個で良かった・・・」と思って間違ったと主張しているのかもしれないからです。
ユーザーから、買った時の状況をヒアリングして、信ぴょう性があるかどうか判断していくことになると思うのですが、間違ってクリックしてしまうような画面なのか、ユーザーが申し出てくるまでの経緯がどうなのか、ユーザーの説明は自然で具体的なのか、また一貫しているのか、などを考慮することになるでしょう。
その関係でも、やはり「ユーザーが間違ってクリックしないような画面」「間違ってクリックしても、すぐ気づけるような画面」にしておくことが重要といえます。
Q2(ショップが間違った値段を書いてしまった)
(Question)
オンラインショップで、商品の値段を10,000円と書いたつもりだったのに、間違って100円と書いてしまいました。他のオンラインショップでも、10,000円くらいで売っている商品で、100円で売らなければいけないとすると大損害です。注文が来てしまっているのですが、応じなければいけないんでしょうか。
(Answer)
状況次第ではありますが、応じなくてもいい可能性が高いと思います。
【解説】
法律上は、2つの論点があります。
1.売買契約はもう成立してしまった?
そもそもまだ売買契約が成立していないのだとすると、注文に応じる必要はありません。
一般的には、オンラインショップでウェブサイトに商品を掲載して、ユーザーが注文しても、その時点で売買契約が成立するのではなく、オンラインショップがユーザーに承諾の通知をしたときに売買契約が成立すると考えられています。これは、オンラインショップでの商品の掲載は、ふつうは「申込み」ではなく「申込みの誘因」になると考えられているからです。
「申込み」「申込みの誘因」という難しい言葉が出てきましたが、「申込み」は、「この条件で買いたい人がいるんだったら売ります」、というのが申込みです。「申込み」だとすると、「買います」と「承諾」をする人が出てきたら、そこで売買契約成立です。これに対して、「申込みの誘因」というのは、「興味がある人がいたら言ってください。そしたら話し合いましょう。」みたいなケースです。
オンラインショップへの掲載は、一見「申込み」のように見えるかもしれませんが、オンラインショップでは、サイトに掲載した商品がもう売り切れてしまっているケースもあるため、サイトへの掲載は、「買いたい人がいたら知らせてください。在庫を確認します」(申込みの誘因)という意味だと考えるほうが合理的だからです。なお、あくまで一般論なので、ショップでの表記のしかたなど、事情によっては、オンラインショップへの商品の掲載が「申込み」と扱われる場合もあることには注意してください。
申込みの誘因だとすると、ユーザーが「購入」ボタンを押すことで、ユーザーからショップに「買いたいので売ってください」という「申込み」がなされ、そのあとショップ側がユーザーに電子メールなどで承諾の通知を送ることで売買契約が成立することになります。
このケースでは、まだショップ側から承諾の通知(ユーザーへの電子メールなど)を送っていない場合は、そもそも売買契約が成立していない可能性が高いと思います。そうすると、ユーザーからの注文を断ればいいということになります。
なお、契約がいつ成立するかは、合理的な範囲であれば、利用規約で決めておくこともできます。
2.売買契約がすでに成立ずみの場合・・・錯誤取消しできる?
では、売買契約が成立していたとするとどうでしょうか。その場合は、さっきも出てきた「錯誤」の問題になります。ただ、「申込確認画面」云々の話は、ユーザー(消費者)側がまちがった場合の話なので、今回は関係ありません。
今回はミスで間違った価格を表示してしまっているわけですが、まず問題になるのは、ショップが間違った価格を表示したことに「重大な過失」があるかどうかです。「重大な過失」があれば、原則として取り消せません。そして、ショップは、普通は価格を間違わないように慎重に入力・チェックするでしょうし、そうすれば、間違うことはないでしょう。だとすると、ショップに「重大な過失」があると考えられる可能性が高いです。
ただし、その場合でも、ユーザーが誤表示を知っていた場合、あるいは知らなかったことに重大な過失がある場合はやっぱり取り消せます。通常10,000円で売られている商品が、特に値引きセールでも何でもないのに100円で売られているとすると、「おかしいな」と思うのが通常でしょう。とすると、ユーザーは、きっと誤表示なんだろうと思っていたでしょうし、ちょっとの注意を払えば誤表示であることに気づけたといえるでしょう。
そうすると、結局このケースでは、ショップは「錯誤」として取消ができる可能性が高いと思います。
Q3(未成年者との取引)
(Question)
ユーザーが未成年者だったら、あとから取引をキャンセルできてしまうのでしょうか。取引のキャンセルを防ぐにはどうしたらいいですか。
(Answer)
未成年者が、法定代理人(親権者など)の同意なく取引しても、原則として取消しができてしまいます。リスクを下げるにはいろいろ方法はありますが、オンラインショップで完全にリスクをなくすのはなかなか難しいでしょう。
【解説】
未成年者が、法定代理人(親権者など)の同意なく取引した場合、原則として取消しができてしまいます。
代金支払・商品発送の後に取り消された場合、代金を返し、商品を返すよう求めることになるのですが、未成年者側が返さなければいけないのは「現存利益」の範囲内(=まだ残っている部分)とされていて、例えば買ったのが食べ物でもう食べてしまった場合は、原則として返さなくていいことになっています。このように、取り消されてしまうと、なかなかショップ側にとっては、厳しいルールです。
法律上、次のケースでは取り消せないことになっているので、それを踏まえてリスクを下げていくしかないでしょう。
①法定代理人(親権者など)の同意のうえ取引した場合(民法5条1項)
②おこづかいの範囲で買った場合(民法5条3項)
③成年であるかのように(あるいは、法定代理人が同意していると)だました場合(民法21条)
では、ひとつずつ見ていきましょう。
1.法定代理人(親権者など)の同意をとる?
店舗だったら親権者に一緒に来てもらうという方法がありますが、オンラインショップだとなかなかこの方法は難しいでしょう。未成年者だとわかった場合は、電話・郵送などで親権者が同意しているか確認するといった方法は考えられます。もっとも、手間がかかるので、普通のオンラインショップだとなかなかハードルが高いでしょう。
現実的なやり方でリスクを下げるとすると、未成年者が申し込んだ場合は、申込画面で「親権者の同意が必要です」と告知し、「親権者の同意を得ています」という項目にチェックさせることは考えられるでしょう。これだけでは、ユーザーである未成年者が本当に親権者の同意を取ったかどうか、ちゃんと確認できるわけではないのですが、あとで説明する「3」(法定代理人が同意しているとだました場合)に当たりやすくなります。
2.おこづかいの範囲におさめる?
おこづかいの範囲で買った場合は取り消せない(民法5条3項)のですが、注意点は、普通この金額だったらおこづかいの範囲でしょう、と思うような金額でも、それだけではだめで、そのケースでおこづかいの範囲で買ったということが必要、ということです。ユーザーの家庭のおこづかいがいくらで、その範囲で買ったか、というのは、オンラインショップにはわからないので、それほど有用な規定ではありません。
ただ、普通おこづかいの範囲に収まるような少額だったとすると、取り消されたとしてもリスクが小さい、という意味はあるので、リスク管理のため金額をおさえるという方法は考えられるでしょう。
3.いざ取り消そうとしたときに、「だましたので取り消せません」といえるようにする?
成年であるかのように(あるいは、法定代理人が同意していると)だました場合は取り消せないので、だまされた、といえるようにする、ということです。
具体的な方法は、だいぶ1とかぶりますが、例えば、
・申込画面で生年月日を入力させる
・生年月日で未成年だとわかった場合は、親権者の同意が必要ですと告知し、「親権者の同意を得ています」という項目にチェックさせる
といった方法です。
注意点は、上のような手順を踏んだからと言って、必ず「だまされた」といえるとは限らないということです。
たとえば、未成年者をターゲットにしたような広告・勧誘がされた場合は、ユーザー(未成年)側が「だました」と判断されづらくなります。その場合は、より慎重な手続きをとるのが望ましいといえます。
Q4(クレジットカードの不正利用)
(Question)
クレジットカードの不正について、オンラインショップとして気を付けておくべきことは何ですか?
(Answer)
アクワイアラーが求める、3Dセキュアなどの安全対策をとる必要があります。
【解説】
クレジットカード会社と加盟店との間の契約では、加盟店が必要な不正利用防止措置を取っておらず、クレジットカードの不正利用がなされた場合、クレジットカード会社が加盟店に支払わなくていい(支払い済みの場合は、返すよう請求できる)ことになっているのが多いです。これは、「チャージバック」と呼ばれています。
このため、アクワイアラーが求める、3Dセキュアなどの安全対策をきちっと取っておくことが重要です。
[ディスクレイマー]
本コラムは、お客様の参考として一般的な情報を提供するものであり、具体的な法的助言を意図したものではありません。また、分かりやすさを保つため、法的には厳密さを欠く表現にしている部分も多くあります。実際の事案を検討される際には、必要に応じて専門家にご相談ください。