キャッシュレス決済の法律

このコラムでは、QRコード決済などのキャッシュレス決済に関係する法律を説明します。


1.前払式支払手段、預り金、為替取引(資金移動業)


キャッシュレス決済のうち、通常のQRコード決済のようなプリペイド型決済手段にかかわる法律を理解する上で避けて通れないのが、「前払式支払手段」、「預り金」、そして「為替取引(資金移動業)」という3つの概念になります。そこで、最初にこれらの概念を説明します。


(1)前払式支払手段


(i)前払式支払手段とは?

前払式支払手段というのは、商品券やプリペイドカードなどのプリペイド型決済手段です。商品券やプリペイドカードは、先にお金を払って商品券やプリペイドカードを買っておき、後でそれを呈示することで、買うときに現金を払わずに買い物ができます。このような、先にお金を払っておき、後でその証票等(商品券など)を呈示することで代金決済ができる、というものが前払式支払手段です。なお、〇円分の支払いに使える、というふうに使える額が金額ベースで決まっているものだけでなく、回数券のような、購入できる商品・サービスが数量ベースで決まっているものも、前払式支払手段にあたります。また、券面やカードが発行されず、サーバー上に記録され、それに紐づいたID等が発行されるもの(QRコード決済などはこのタイプになります)も該当します。

(ii)「自家型」と「第三者型」

ところで、商品券やプリペイドカードは、それを発行している会社などでしか使えないタイプと、色々な加盟店で使えるタイプに分かれます。前者が「自家型前払式支払手段」、後者が「第三者型前払式支払手段」と呼ばれます。

自社・自店舗での決済にしか使えないタイプ(たとえば、回数券はこのタイプが多いでしょう)は、小規模な業者を含め、リピーターの確保などのため多くの業者で発行するニーズがあり、また広く使われるものではありませんので、それほど高い信用が求められるものではなく、発行するのに許認可はいりません。ただし、基準日(3月末・9月末)の未使用残高(=ユーザーがこれから決済に使える残高)がいったん1,000万円を超えてしまうと、当局(管轄財務局)に届け出る義務があります(資金決済法5条、資金決済法施行令6条)。また、基準日の未使用残高が1,000万円を超える場合は、未使用残高の半分以上の額を、発行保証金として法務局に供託しなければなりません(資金決済法14条)。このように、自家型前払式支払手段は、未使用残高が1,000万円を超えると急に規制が厳しくなりますので、注意してください。ただ、有効期限を6か月以内にしておくと、規制の対象外になります。有効期間が短期間のものは、ふつう早く使い切ってしまうので、発行者の倒産などで利用者が損害を被るリスクは小さいと考えられるためです。

これに対して、加盟店で広く使うことができる第三者型前払式支払手段は、全国の百貨店で使える全国百貨店共通商品券、JCBギフトカードなどが例として挙げられますが、企業が自社のリピーター獲得のために発行する自家型前払式支払手段とは性質が変わってきて、決済手段として広く使われることになります。第三者型前払式支払手段は、自家型と違って、あらかじめ当局(財務局長)から登録を受けないと発行できないことになっています。なお、いわゆるQRコード決済は、この第三者型前払式支払手段か、あるいは後で説明する資金移動業として提供されていることが一般的です。

(iii)前払式支払手段は払い戻しに制限がある

自家型・第三者型を問わず、前払式支払手段の払い戻しは限られた場合しかできません。法律で払い戻しが制限されているというのは意外に思われるかもしれませんが、これは後で説明する「預り金」の規制に通じる話で、銀行預金のようなものを銀行免許を持たない一般人が発行してしまい、万が一倒産などが起こったときに広く被害が発生することを防ぐための規制です。払い戻しは一定の上限までしかできず、ただ、サービスを廃止する場合、ユーザーのやむを得ない事情による場合などは、その上限を超えても払い戻しができます(資金決済法20条5項、前払式支払手段に関する内閣府令42条)。なお、サービスを廃止する場合は、払い戻しは義務になります(資金決済法20条1項)。

なお、前払式支払手段を発行する場合は、発行者の名称、利用可能金額、有効期間など一定の事項について、前払式支払手段に関する内閣府令21条に定める方法で情報提供する義務があります(資金決済法13条)。


(2)預り金


出資法という法律で、預金などの「預り金」を受け入れることは、銀行免許などがないとできないことになっています(出資法2条)。金融の安定、また、預けた先が破産するなどして預けた人が損害を被ることを防ぐための規制です。

「預り金」とは何なのか、というのは、端的にいえば「預金のようなもの」なのですが、原本の返還を約束して不特定多数の者から金銭を受け入れ、主な目的が預けた人の便宜のためである(つまり、社債のように資金を集めて事業を遂行する目的ではない)ものが「預り金」である、と考えていただければいいです。

すぐ上のところで出てきた、前払式支払手段の払い戻しの制限も、この「預り金」の禁止に通じる話です。前払式支払手段で、「いつでも預けた金は返しますよ」と業者が約束してしまうと、前払式支払手段が預金のような機能を営みかねないからです。


(3)為替取引・資金移動業


最後に、「為替取引」(と資金移動業)です。

(i)そもそも「為替取引」とは?

まず、「為替取引」の意味を説明します。通貨の交換レートを「為替レート」と呼ぶことが多いので、「為替」というと外国通貨との交換(外貨両替)のことかと思ってしまわれる方もいるかもしれませんが、もともと「為替」というのは、お金を実際に運ばずに送金する仕組みを使って送金することです。

具体例で説明すると、たとえば、福岡に住んでいるPさんの息子Sさんが東京の大学に通っており、Sさんから追加の仕送りを頼まれたので、Sさんに10万円送金するとします。Pさんが10万円を福岡の銀行のATMに持って行って、Sさんの銀行口座あてに振り込むと、振込が完了し次第、Sさんは10万円を東京の銀行ATMから引き出すことができますので、それで送金が完了します。いうまでもないことですが、そのとき、Pさんが福岡の銀行ATMに差し入れた10万円札を銀行の人が飛行機で東京の銀行ATMまで運んだわけではありません。東京の銀行ATMにはもともと紙幣が入っており、振込の手続が完了して、Sさんが10万円を銀行ATMから引き出していい、という状態になったため、Sさんが10万円札を引き出せたわけです。このような、お金を実際に運ばずに送金する仕組みを使って送金すること(なお、送金指示をしたPさんではなく、送金処理をした銀行の行為です)が「為替取引」です。

(ii)「為替取引」は銀行など一部の業者しかやってはいけない

いうまでもなく、現代の経済取引において、このような「為替取引」は非常に重要な役割を担っており、為替取引を営む業者の信用性は非常に重要です。高額な為替取引をやろうとしたところ、業者に持ち逃げされた、あるいは業者が倒産したとすると大変なことになります。このため、為替取引は厳格な規制に服する銀行など一部の業者しかできないことになっています。

ただ、イノベーションを促進するため、(基本的に)少額の(100万円以内の)為替取引であれば、銀行免許等がなくても、「資金移動業」というより軽いライセンスでできるようになっています。なお、2021年施行の法改正で、資金移動業は1種・2種・3種の3類型に分かれるようになり、1種であれば金額の上限なく送金できるようになりました。しかし、1種は具体的な送金の予定がないと資金を受け入れてはいけないという厳しい規制があり、いわゆるキャッシュレス決済業者は基本的に2種ですので、このコラムでは2種を前提に説明します。

QRコード決済などでは、前に説明した「第三者型前払式支払手段」ではなく、この「資金移動業」として行っているケースもあります。「資金移動業」としてやる、というのは、ユーザーが、加盟店に支払う代金を、加盟店に現金で支払うのではなく、ユーザーが持っている資金移動業者のアカウントからの送金の形で加盟店に支払う、ということになります。


(4)「第三者型前払式支払手段」と「資金移動業」の比較


同じQRコード決済でも、「第三者型前払式支払手段」として行う場合と、「資金移動業」として行う場合ではいろいろ違いがあります。

(i)資金移動業なら、純粋な送金ができる

まず、「資金移動業」の場合は、お店に支払う代金の決済だけでなく、他のユーザーへの送金もできます。資金移動業とは、もともと送金サービスだからです。他方、「第三者型前払式支払手段」の場合は、送金はできません。ただ、若干送金に似てくるのですが、他のユーザーに「第三者型前払式支払手段」を譲渡(残高を譲渡)できる仕様のものはあります。有体物の第三者型前払式支払手段、たとえば全国百貨店共通商品券は、ギフトとして他の人にあげる(あるいは、要らなくなったので売る)ことができることが多いですが、それを電子的にやるということです。

(ii)資金移動業は、本人確認が必要

資金移動業の場合は犯収法上の取引時確認(本人確認)が必要となります。本人確認はユーザーからすると面倒なので、ユーザー獲得の上ではハードルになります。また、前払式支払手段の場合も、10万円超の電子的な譲渡ができる前払式支払手段の場合は、犯収法上の取引時確認(本人確認)が義務付けられます。このため、QRコード決済などでそのような本人確認なしで使えるサービスにしたい場合は、残高譲渡ができない(あるいはできても取引時確認義務が発生しないように、制限を課す)サービス設計にしておく必要があります。

(iii)資金移動業は払い戻しの制限がない

「資金移動業」の場合は、第三者型前払式支払手段の場合と違って、法律上払い戻しの制限はありません。また、第1種資金移動業(送金上限なし)は別とすると、将来の送金(例えば、将来店舗でキャッシュレスで買い物をすること)に備えて、予めアカウントを作って、そこにお金を入れておくことは可能と考えられています。ただ、出資法の「預り金」に当たらないか、というのは微妙な問題で、例えば利息を付してしまうと、預り金に当たって違法になるおそれがあると考えられます(資金移動ガイドラインⅡ-2-2-1-1(6))。また、こちらも「預り金」の禁止に通じる話ですが、アカウントで100万円以上預かっている場合は、為替(送金)取引に使う資金なのか確認体制を整備する義務があります(資金移動府令30条の2)。

(iv)資金移動業は供託の負担が重い

また、第三者型前払式支払手段との違いとして、第三者型前払式支払手段では、供託するのは(3月末・9月末時点の)未利用残高の半分ですが、資金移動業は「未達債務」の全額+αとなっており(資金決済法43条)、供託のルールも資金移動業の方が厳しいです。

(v)デビットカード

ところで、キャッシュレス決済の手法として、銀行が発行しているデビットカードというのがありますが、これも資金移動業と同じく、「為替取引」です。ただ、銀行なので、資金決済法ではなく銀行法に基づいて行われます。また、資金移動業者のアカウントとは違い、銀行預金なので、こちらは利息を付しても問題ないことになります。


2.ポイントも「前払式支払手段」?

キャッシュレス決済とは若干話がずれますが、今までの話と関係性が深いものとして「ポイント」があります。

ポイントは、ユーザーが買い物をしたときなどに付与され、後日買物代金などの決済に使えるようになっていますが、このポイントも、最初に説明した「前払式支払手段」に当たらないかという問題があります。

ポイントは、後日、一定の買い物代金等に充当できる、という点ではプリペイドカード等の前払式支払手段に近いところがあるのですが、通常は、ユーザーがお金を払って取得しているわけではなく、買い物の「おまけ」として付与しているだけなので、前払式支払手段ではないと考えられています。つまり、代金を払って何かを買い、ポイントも付与されたというときに、代金は、買った物の代金であって、ポイントはおまけとして付与されたものにすぎない(ポイントを取得するために代金を払ったわけではない)ということです。ただ、微妙な部分もありますので、ポイントの有効期限を6か月以内にしている場合もあります。これは、前に説明した通り、6か月以内に期限が到来するものは、前払式支払手段の規制対象外になるためです。なお、ポイントを「おまけ」として付与する場合は、景品表示法で許される上限の範囲内で付与する必要がありますが、普通の買い物のケースで、かつ抽選ではなく全員に付与する場合(総付景品)を想定すると、代金の2割以内であればいいので、問題となるケースは少ないと思われます。

また、ポイント交換で取得したポイントはどうなのか、という問題もあります。別のポイントという対価を払ってポイントを取得したように見えるからです。この場合、もともと持っていたポイントが「前払式支払手段」にあたらない、単なるおまけとして得られたポイントであれば、交換した先のポイントも前払式支払手段ではないと扱うのが一般的です。


3.クレジットカードについて

次は、クレジットカードの話です。

クレジットカードは、後払型の決済手段ですので、法律的にも、1で説明した前払式支払手段や資金移動業とはまた別物です。前払式支払手段や資金移動業は、基本的に先払いが前提になるためです。

なお、クレジットカード(ショッピング)は、法的には何をやっているかというと、クレジットカード会社が、ユーザーの代わりに加盟店に代金を支払い、その金額をユーザーに後日請求する、と説明されます。それ以外にも「債権譲渡」として説明するものもあります。

金融規制との関係では、「マンスリークリア」と呼ばれる、1か月分の買い物代金を翌月等に引き落とすタイプは、特に金融規制の対象にならないのですが、リボ払いなどは、割賦販売法上の「包括信用購入あっせん業者」として、登録が必要になります(割賦販売法2条3項、31条)。なお、登録の要否は、利用(買い物)から2か月以内にユーザーとの間の決済が完了しないサービスをするのであれば必要です。実際には、多くのカード会社はリボ払いのサービスも提供しているので、包括信用購入あっせん業者として登録しています。また、カード会社や加盟店などに、カード番号の適正管理、不正利用防止のための規制があります。また、クレジットカード発行には、犯収法に基づく取引時確認(本人確認)も必要になります。

なお、プリペイドカードやデビットカードでも同じですが、VISA、Mastercardなどの国際ブランドのカードを発行する場合は、セキュリティ要件など国際ブランドのルールを理解・遵守することも必要です。


4.不特定相手に使える電子的決済手段(暗号資産、電子決済手段)

最後に、現在のところ、キャッシュレス決済手段として一般の商取引で広く使われているには至っていませんが、暗号資産と電子決済手段について説明します。ビットコインは「暗号資産」に該当します。また、「ステーブルコイン」と呼ばれるものは、この2つのいずれかに該当します。


これらは、通常、ブロックチェーンなどで記録・移転される電子的な支払手段です。このうち、発行者が法定通貨で発行価格での償還を約束しているのが「電子決済手段」、それ以外(発行者がいないこともあります)が「暗号資産」になります。


(1)第三者型前払式支払手段との違い


第三者型前払式支払手段のようなキャッシュレス決済の機能を担うとすると、おそらく電子決済手段の方になると思いますが、この2つの違いはどこにあるのでしょうか?

第三者型前払式支払手段の方は、発行者が「加盟店」で利用できることをユーザーに約束しており、「加盟店」は第三者型前払式支払手段での決済を受け付け、その場合、発行者が加盟店に対して代金相当額を払うことになります。この仕組みは、発行者が、ユーザー、加盟店双方との間で契約を結んで、事前にそのような決済ができることをお互いに合意しておくことで成り立っています。第三者型前払式支払手段はこのような仕組みになっているため、いいかえると「加盟店」でしか使えません。


これに対して、電子決済手段の場合は、ユーザーや店舗と、発行者との間に、通常そのような契約関係はありません。ただ、電子決済手段はブロックチェーン上などで移転することができ、受け取った人は、どこかで発行者にもっていけば、発行者が予め決められた額で現金に換えてくれます。電子決済手段では、発行者が、持ってきたら決まった額の現金で償還します、と約束しているためです。このような約束により、多くの人が電子決済手段を安心して使えるようになり、決済手段として受け入れられるようになると、発行者と全く関係のない人を含めて、広く使われる可能性もあります。


(2)電子決済手段の発行は「為替取引」である


なお、電子決済手段の発行は、法的には「為替取引」にあたります。以前出した例で説明すると、福岡にいるPさんが、東京の大学で一人暮らしをしている息子Sさんに10万円の仕送りをしようとする場合、Pさんは、発行者に10万円払い込んで電子決済手段の発行を受け、それをブロックチェーン上でSさんに移転し、Sさんはそれをさらに発行者に移転して10万円を受け取る、という方法で、PさんからSさんへの送金ができるからです。お店で買い物をしてその代金を電子決済手段で払う場合も同じことで、上の「Pさん」をお店で買い物をする人、「Sさん」をお店の人、と置き換えればいいことになります。このように、「為替取引」にあたるため、電子決済手段は銀行業または資金移動業などのライセンスがなければ発行できません。


(3)暗号資産・電子決済手段の流通や保管(管理)のサービスも規制がある


暗号資産や電子決済手段は、流通や保管(管理)だけに関与する業者も出てくる可能性がありますが、これらのサービスについても、通常許認可が必要です。例えば、暗号資産の売買に関するサービスやウォレットサービスを提供する場合は、「暗号資産交換業」として登録する必要がありますし、電子決済手段について同じようなサービスを提供する場合は「電子決済手段等取引業」の登録が必要です。




[ディスクレイマー]
本コラムは、お客様の参考として一般的な情報を提供するものであり、具体的な法的助言を意図したものではありません。また、分かりやすさを保つため、法的には厳密さを欠く表現にしている部分も多くあります。実際の事案を検討される際には、必要に応じて専門家にご相談ください。

2024.6.13
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