中小企業M&Aのポイント:スクイーズアウトによる株式の集約

1.株式を集約するニーズ


古くからある非上場の中小企業は、相続の繰り返し、あるいは相続税対策などで株式が分散しているケースが少なくありません。そのような会社が、後継者がいないなどの背景から会社をM&Aで第三者に売ろうとする場合、買い手企業から株式を集約するよう求められることが多いです。

また、直ちに事業承継のM&Aをする予定がないとしても、株主がたくさんいる場合、株主総会の運営などの手間もかかってしまいますし、経営株主と他の株主との間の紛争が発生する可能性があります。後者については、親族が株主である場合に、親族間に遺産分割、離婚に伴う財産分与請求などの争いが発生したときに、会社法上の株主としての権利が争いの手段として使われることも考えられます。また、将来事業承継のため第三者に売却することになると、株式が分散していると売却が面倒になります。

このような背景で、非上場の中小企業にとって、株式を経営株主などに集約するニーズがあります。


2.「スクイーズアウト」とは?


(1)任意交渉とスクイーズアウト


株式を集約するときには、普通は各株主と交渉して株式を買い集めることになります。しかし、どうしても売るのを拒絶する(あるいは法外な値段を要求する)、あるいは、株主と連絡がつかずそもそも交渉もできない場合があります。そのような場合にも株式を集約できるよう、強制的に株式を集約する「スクイーズアウト」という手段があります。


(2)なぜスクイーズアウトが許容されているのか?


自分でお金を払って買った株式ですので、その株式を持ち続けるか売るかどうかは、本来その株主の自由でしょう。それでは、なぜ強制的に株式を集約する「スクイーズアウト」という手段が法律で認められているのでしょうか。

一般論としていえば、会社に経営株主以外の株主がいると、経営株主とほかの株主との利益相反の問題に配慮しながら会社の運営を進める必要があるため、意思決定のスピードや柔軟性が落ちてしまいます。このため、特定の株主に株式を集約するメリットがある場合があります。

すなわち、会社の株主が経営株主(または親会社)だけであれば、株主総会も書面決議(会社法319条)で簡単にできます。なお、他の株主がいても書面決議を使うこと自体はできますが、その株主が同意しないと決議が成立しないため、その株主との関係性によりますが、難しい場合も多いと思います。また、株主が一人だけになると、他の株主との利益相反についても気にしなくてよくなります。また、他の株主がいると、株主代表訴訟、帳簿閲覧請求権、検査役選任請求権などの権利を行使される可能性がありますし、経営株主の持っている議決権の比率が低いと、そもそも株主総会で提案が否決される可能性もあります。このように、他の株主がいると、他の株主との関係に配慮する必要があり、会社を思うように運営できなくなり、事業の意思決定のスピードや柔軟性に影響します。

このような背景から、M&Aで会社を売却する場合も、買い手は100%の議決権取得を希望します。最初から経営株主が100%の議決権を持っているとスムーズですが、他に株主がいる場合は、他の株主も売却に応じてくれるか、という問題が出てくるため、M&Aの際にスムーズに進まない可能性もあります。

もっとも、持ち続けようと思っていた株主から強制的に売ってもらうわけですので、対価が適切かどうか、というのは重要になります。さらに、非上場会社の場合は、正当な事業目的なく、反対派株主を追い出すといった不当な目的でスクイーズアウトする場合は違法という考えもあるため、スクイーズアウトすることで事業上どのようなメリットが生じるのか、というのは十分気にしておく必要があります。


(3)事業承継型M&Aにおけるスクイーズアウトのタイミング


事業承継型M&Aの場合、スクイーズアウトは、①今までの経営株主があらかじめスクイーズアウトで全部の株式を取得したうえで、株式を買い手に譲渡する場合と、②買い手が、売ってくれる株主から株式を買い集めたうえで、残った(売ってくれなかった)株主についてスクイーズアウトする場合、の両方が考えられます。

買い手(承継先)としては①の方が手間がかからないので、①を希望することが多いだろうと思います。他方、売り手(今までの経営株主)の観点で見ると、①で進めた場合、承継先からM&A代金を受け取る前にお金を払って他の株主から買い取るので、先に買取資金が必要になります。また、①で進めると、現経営株主が株式を集約したけれども、結局買い手が買ってくれなかったという事態も発生するかもしれない、ということに注意が必要です。これらの中には、M&Aの契約の条項をうまく定めることで対処できる部分もありますが、このような観点を踏まえて進め方を考えていく必要があります。


3.スクイーズアウトの2つの方法

スクイーズアウトのためによく使われる方法は、「特別支配株主の株式等売渡請求」と「株式併合」の2つです。ここでは、事業承継M&Aの対象になるような、典型的な中小非上場会社を想定して、手続きについて説明します。


(1)特別支配株主の株式等売渡請求


(i) 概要


特別支配株主の株式等売渡請求(会社法179条)は、まさにスクイーズアウトの手段として作られた制度です。具体的には、90%以上の議決権を持っている「特別支配株主」が、他のすべての株主から強制的に株式を買い取ることができる、というものです。


(ii) 手続きの大まかな流れ


① 特別支配株主が、会社の株式をいくらで、いつ買うか(=取得日)を決め(会社法179条の2)、会社に通知する(会社法179条の3第1項)

② 会社は、①を承認するかどうかを決め(取締役会設置会社の場合は、取締役会決議で決める)、特別支配株主に結果を通知する(会社法179条の3)。なお、会社は、承認するかどうかを決める際には、条件の適正さ、特別支配株主がきちっと対価を支払えるかどうかなどを考えて決める必要があると考えられている。

③ 会社は、各株主に対して、取得日の20日前までに、①の事項などを通知し(通知費用は特別支配株主が負担する)(会社法179条の4)、事前開示書面の本店備置を開始する(会社法179条の5)。事前開示書面には、対価の相当性、対価交付の見込みについても書く必要がある(会社法施行規則33条の7)。

④ 取得日に特別支配株主が株式を取得する(会社法179条の9)。対価の支払時期も、期限を別に決めていない限り、この取得日に支払う必要があると考えられている。
⑤ 会社は、取得日後遅滞なく、事後開示書面の本店備置を開始する(会社法179条の10)。


価格に不満をもっている株主は、取得日の20日前の日から取得日前日までの間、裁判所に売買価格の決定の申立てができます(会社法179条の8)。また、場合によっては、差止請求(会社法179条の7)、取得の無効の訴え(会社法846条の2第1項)ができることもあります。


(iii) まとめ


特別支配株主の株式等売渡請求(会社法179条)は次に説明する株式併合より手続きがシンプルですが、集約する株主が議決権の9割以上を持っている必要があります。


(2)株式併合


(i) 概要


株式併合とは、複数の株式を併合して1つの株式にすることです。例えば、10株を1株にする株式併合をしたときには、もともと10株持っていた株主は、併合後も1株持っていることになりますが、もともと5株しか持っていなかった株主は、併合後は1株も持たないことになります。単純計算すると0.5株なのですが、1株未満の場合は議決権、配当受領権などの株主としての権利がないので、その関係では結局1株も持っていない、ということになります。このように、複数の株式を併合して1つの株式にするのが株式併合です。

ただ、そのままだと元々5株持っていた株主は損失を被ってしまうため、端数分をまとめて誰かが買い取り、対価を交付することになります(会社法235条、234条2項など)。なお、買取については裁判所の許可が必要です。

株式併合は、もともとスクイーズアウトのために作られた制度ではありませんが、上のような仕組みなので、残る株主以外の株主の保有数が1株未満になるように比率を設定することで、スクイーズアウトにも使うことができます。


(ii) 株式併合の大まかな流れ


① ②の株主総会の招集(会社法296条)、会社の本店で事前備置開始(会社法182条の2)。なお、事前備置書類では、端数処理の方法や対価についても開示する必要がある(会社法施行規則33条の9第1号ロ)。また、「株主の利益を害さないよう配慮した事項」(会社法施行規則33条の9第1号イ)として第三者算定機関から株式価値評価書を取得し開示することも考えられる。

② 会社が、併合比率、効力発生日などを株主総会の特別決議(3分の2以上の賛成)で決める(会社法180条2項、309条2項4号)。なお、この株主総会では、会社側が、株式併合が必要な理由を説明する必要がある(会社法180条4項)。

③ 効力発生日の2週間前までに、会社が株主に併合比率、効力発生日などを通知または公告する(会社法181条)。

④ 効力発生日に効力発生(会社法182条)。

⑤ 効力発生日後遅滞なく、会社の本店で事後備置開始(会社法182条の6)。


株主総会で反対した株主などは、会社に株式を自ら買い取るよう請求できます(株式買取請求)(会社法182条の4)。また、差止請求ができることもあり(会社法182条の3)、総会決議後3か月間は決議取消の訴えができることもあります(会社法831条1項3号)。

併合により生じた端数部分は、上に書いたように裁判所の許可を得て(普通は株式を集約する経営株主などに)売却し、売却金を端数部分の株主に交付します(会社法235条、234条2項など)。裁判所の許可を得るときにも、対価の妥当性を裏付ける資料が必要と考えられます。なお、端数部分の合計が1株未満になると切り捨てられて対価が交付されなくなってしまうので、併合比率の設定は注意して行う必要があります。


(iii) まとめ


株式併合は、株主総会決議が必要で、さらに端数の売却について裁判所の許可が必要となるため、手続きは特別支配株主の株式等売渡請求より面倒です。

一方で、株主総会で3分の2の賛成が得られれば実行できるため、9割保有が必要となる特別支配株主の株式等売渡請求が使えない場面でも、株式併合であればスクイーズアウトを進められる可能性があります。


4.所在不明株主への対応


(1)所在不明株主の持っている株式の売却(会社法197条)


株主の所在が不明の場合、株主と接触できないため、株式集約に向けた買取の交渉はできないことになります。その場合にも株式を集約する手段としては、上で説明したスクイーズアウトのほかに、会社法197条に基づく売却という方法もあります。

これは、5年以上通知・催告が到達せず配当も受領していない株主の持っている株式を、裁判所の許可を得て売却するという方法です(会社法197条1項2項)。裁判所の許可を受けようとするときには、可能な限り、中立な第三者の株式価値算定報告書等を提出するのが望ましいとされています。

なお、この手続きを利用する場合は、公告が必要なのですが、公告に3か月以上の期間をとる必要があるため(会社法198条1項)、スケジュールを考える際には注意が必要です。


(2)経営承継円滑化法の特例


上の「5年」の部分ですが、非上場の中小企業が経営承継円滑化法にしたがい都道府県知事の認定を受けたときは、「1年」に短縮できます。認定を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。

経営困難要件・・・当該中小企業者の代表者が年齢、健康状態その他の事情により、継続的かつ安定的に経営を行うことが困難であるため、当該中小企業者の事業活動の継続に支障が生じている
円滑承継困難要件・・・当該中小企業者の一部の株主の所在が不明であることにより、その経営を当該代表者以外の者に円滑に承継させることが困難(※所在不明株主の議決権割合が一定以上かどうかで判断されるようです)




[ディスクレイマー]
本コラムは、お客様の参考として一般的な情報を提供するものであり、具体的な法的助言を意図したものではありません。また、分かりやすさを保つため、法的には厳密さを欠く表現にしている部分も多くあります。実際の事案を検討される際には、必要に応じて専門家にご相談ください。

2024.6.20
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