このコラムでは、企業の経営者・担当者向けに、安全保障貿易管理(輸出管理)について解説します。
このコラムはあくまで入門的な解説で詳しいことは書いていませんし、この分野は変化が速いですので、実際の手続きを確認される際は、経済産業省HPの安全保障貿易管理の解説などで、正確・最新の情報をご確認ください。
1.安全保障貿易管理(輸出管理)とは?
安全保障貿易管理(輸出管理)とは、先進国の高度な貨物や技術が、大量破壊兵器などの開発・製造を行っている国やテロリストに渡ってしまうこと、通常兵器を過剰に蓄積されること、などの国際的な脅威をあらかじめ防ぐため、国際的な枠組みにもとづき行われる輸出管理です。
この国際的な枠組み(国際輸出レジーム)としては、以下のようなものがあります。
・原子力供給国グループ(NSG)・・・核兵器関連
・オーストラリア・グループ(AG)・・・生物・化学兵器関連
・ミサイル技術管理レジーム(MTCR)・・・ミサイル関連
・ワッセナー・アレンジメント(WA)・・・通常兵器関連
これらの枠組みにもとづいて、日本では、外為法(25条・48条)を根拠に輸出管理が実施されています。なお、細目は外為法にもとづく以下の政令・省令(さらには通達など)に書いてありますので、これらもチェックする必要があります。
・輸出令(規制対象の貨物を定めています)
・外為令(規制対象の技術を定めています)
・貨物等省令(規制対象の貨物・技術の機能や仕様を定めています)
2.「リスト規制」と「キャッチオール規制」
安全保障貿易管理は、「リスト規制」と「キャッチオール規制」の2つに分けられています。それぞれみていきましょう。
(1)リスト規制
「リスト規制」というのは、列挙(リスト)された貨物や技術を輸出・提供するときは、仕向地がどこであっても、原則として経済産業大臣の許可が必要、というものです。規制対象の貨物は、「輸出令・別表第1」の1項~15項に、規制対象の技術は、「外為令・別表」の1項~15項に列挙されています。さらに、貨物等省令でスペックの限定があり、基本的には高スペックのものだけが対象にされています。
リスト規制の対象になるのは、軍事転用の可能性が特に高い、機微な貨物・技術ですが、一見軍事利用・兵器とのかかわりが薄そうに見える品目でも、スペックによっては対象になってしまうことに注意です。
(2)キャッチオール規制
安全保障貿易管理の対象は、リスト規制の対象品目だけではありません。それ以外の品目であっても、食品・木材等一部の品目をのぞき、これから説明する「キャッチオール規制」の対象になります。
キャッチオール規制の対象は、そもそもリスト規制の対象から外れた品目ですので、許可が必要になる場合は限られています。許可の要否は仕向地によって異なり、以下のようになります。
まず、仕向地がグループA国(アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、カナダ、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、大韓民国、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、アメリカ合衆国)の場合は、許可不要です。
他方、仕向地がそれ以外の場合は、許可が必要になることがあります。具体的には、以下のようになります。
(i) 大量破壊キャッチオール
以下3つのどれかにあたると、許可が必要です。
インフォーム要件 | 経済産業省から個別に(許可申請をするよう)通知された場合 |
用途要件 | 大量破壊兵器等の開発等に用いられるおそれがある場合 |
需要者要件 | 大量破壊兵器等の開発等を行っている(いた)場合 外国ユーザーリストに掲載されている場合 (輸出する貨物等の用途並びに取引の条件及び態様から、大量破壊兵器等の開発等以外に用いられることが明らかなときは除く。) |
(ii) 通常兵器キャッチオール
以下2つのどれかにあたると、許可が必要です。
インフォーム要件 | 経済産業省から個別に(許可申請をするよう)通知された場合 |
用途要件 | (アフガニスタン、中央アフリカ、コンゴ民主共和国、イラク、レバノン、リビア、北朝鮮、ソマリア、南スーダン、スーダン(輸出令別表第3の2に列挙される国連制裁対象国)を仕向地とする場合のみ) 通常兵器の開発等に用いられるおそれがある場合 |
3. 輸出管理の対象
輸出管理の対象は、『貨物の輸出』と『技術の提供』の二つです。有償・無償は問いません。
(1)貨物の輸出
「貨物の輸出」とは、貨物を日本から外国に向けて送付することです。製品の輸出、無償サンプルの輸出、海外に出張者する際に手荷物として運ぶこと、海外展示会のための一時的持出し、外国からの輸入貨物の返品などは、いずれも「貨物の輸出」に含まれます。
(2)技術の提供
「技術の提供」とは、技術を外国において提供すること、あるいは技術を居住者から非居住者又は特定類型(後述)にあたる居住者へ提供することです。具体例としては、USBメモリ等の持ち出し、電子メールの送付、海外での技術指導・討議、 海外からの顧客との技術討議、外国人研修生への技術指導、技術開発会議などが挙げられます。
特に注意が必要なのは、「居住者」から「居住者」への提供でも、提供を受ける人が「特定類型」に当たる場合は対象になるということです。これは、最近の通達改正で対象に含まれることが明確化されたもので、提供を受ける居住者が非居住者から強い影響を受けている状態にあたる場合には、規制対象とするものです。たとえば、大学で留学生に技術の提供をするケースなどにも影響が及ぶ可能性があります。なお、「特定類型」にあたる居住者に規制対象となる技術を提供する取引は「特定取引」とよばれています。次にすこし詳しく説明します。
(3)「特定類型」について
(i) 「特定類型」に当たるのは?
何が特定類型に当たるかは、「外国為替及び外国貿易法第25条第1項及び外国為替令第17条第2項の規定に基づき許可を要する技術を提供する取引又は行為について」という通達(役務通達)の1(3)サに書かれているので、正確な内容はそちらをみていただきたいですが、概要は以下の通りです(例は、経済産業省「安全保障貿易管理ガイダンス[入門編]」の記載をもとに作成しています)。
類型①:雇用契約等の契約に基づき、外国政府等・外国法人等の支配下にある者
(例)
・外国企業と兼業している日本の企業の従業員
・外国企業の取締役等に就任している日本企業の取締役等又は従業員
(※日本企業の指揮命令権が優先すると外国企業と合意している場合や、外国企業が日本企業との間で50%以上の資本関係にある場合には該当しない)
類型②:経済的利益に基づき、外国政府等の実質的な支配下にある者
(例)
・外国政府等から経済的な支援を受けている従業員
・外国政府等から過去に貸与等の形で利益を受けたが返済を免除され、債務履行請求権の不行使という利益を現に得ている従業員
類型③:国内において外国政府等の指示の下で行動する者
(例)
・外国政府からの指示で日本のある調査を依頼されている従業員(いわゆるスパイ行為)
(ii) 特定類型にあたるかの確認
規制対象となる技術を提供する際には、あらかじめ提供先が特定類型にあたるかどうかを確認する必要があります。たとえば、従業員に対して規制対象となる技術を提供する場合であっても、当該従業員の国籍にかかわらず特定類型にあたるかどうかの確認が必要です。特定類型にあたる場合は、規制対象となる技術を提供するまでに許可を得なければなりません。
[ディスクレイマー]
本コラムは、お客様の参考として一般的な情報を提供するものであり、具体的な法的助言を意図したものではありません。また、分かりやすさを保つため、法的には厳密さを欠く表現にしている部分も多くあります。実際の事案を検討される際には、必要に応じて専門家にご相談ください。